働きがいのある、いい会社とは何か──。
経済産業省近畿経済産業局では、地域の核として持続的な成長を目指す関西地方の中堅・中小企業に着目。彼らがもつ企業経営の目的と、その目的を達成するためのビジネスの考え方や組織設計・デザインについて、45社にインタビュー調査・分析を行った。その報告書「BE THE LOVED COMPANY REPORT」から引用しながら、中堅・中小企業ならではの「人的資本経営」のあり方についてのインサイトを紹介したい。
良質な雇用機会を生み出す「中堅・中小企業」の3つの特徴
日本の経済・産業は、(1)人口減少・少子高齢化、(2)多様な価値観による需給構造の変化をはじめ、大きな構造変化に直面しています。地域経済に目を向けると、特に、(1)の少子高齢化の進展と若者世代の首都圏への流出が進む中で、(2)の多様な価値観に対する寛容度を高めながら「地方で良質な雇用機会を生み出し、豊かな暮らしという環境を提供する」ことを達成するために、地域の核となる中堅・中小企業が求められる役割は重大です。
そのような地域の核となる中堅・中小企業を1社でも多く増やしていくために、プレリサーチから見えてきたのは、地域で良質な雇用機会を生み出す中堅・中小企業の3つの特徴でした。
・中長期的な視点で、着実にビジネスを実行しつつ未来への投資に挑戦し続けることで、付加価値を生み出していること
・経営の目的を、企業が関わるすべての人の幸福と捉え、成長の果実をしっかりと還元していること
・中でも、会社の価値をつくり、社会との接点となる「社員」を大切に、継続的な投資をしていること
これらの特長のさらなる深掘りが、これから地域の核となっていく企業の方々への実践のヒントになるのではないか。そんな思いと昨今の流れでもある「マルチステークホルダー」や「人的資本経営」の考え方を踏まえながら、地域の核となる企業がもつ「経営の目的」や「ビジネスの考え方」、はたまた「組織の存在意義」や「機能する組織づくり」など多面的な視点から把握・整理しました。
「人的資本経営」に注目した理由
ポテンシャルの高い中堅・中小企業が、持続的な成長と新たな雇用の獲得を両立する「付加価値向上と雇用獲得の好循環」を達成する一つの方向性として、「人的資本経営」に注目しました。人を資源ではなく価値を生み出す資本として捉え直し、その価値を最大限発揮してもらうために、会社としての環境・教育などの整備・拡充が大きな競争のポイントとなりうるのです。一方、人的資本経営の実践は一朝一夕には完成しません。実際に良質な雇用機会創出と豊かな暮らしという環境を提供している中堅・中小企業も、その長い歴史やその中の大きな転換点を経て、人的資本経営の重要さに気づき、実践し、中長期的な価値向上に努められてきたに違いありません。
そのような中堅・中小企業は、経営の転換点において何に気づき、そして、どのようにしてぶれない会社の価値観をつくり、それを社員から会社に関連する社内外のステークホルダーまで巻き込みながら、 経営の目的として実行し続けることができたのでしょうか。