「お金は交換に使ってこそ幸せ」
下積み時代は漫才だけで食えなかった。学生時代の友人の稼ぎには負けたくないと思って、いくつもバイトをかけもちした。まもなく賞レースで頭角を現して、売れっ子芸人になった。お金で苦労した経験があると、稼げるようになったあともお金に執着しそうなものだ。しかし、必要以上に貯めない主義だ。
「二度と借金はしたくないので、自分の時間があれば、できるだけ稼ぐことに使いたい。でも、経済的にはお金を使うことが世のためになります。ある程度貯まったら、ある程度使おうと心がけてます」
お金に固執しすぎないのは、お金はツールに過ぎないという認識があるからだろう。わが子にお金の本質について質問されたら、次のように教えるつもりだという。
「ある地域に、ごはんだけをめちゃくちゃもってる人がいる。隣の地域には、みそ汁だけたくさんもってる人がいて、また別の地域には白身魚フライばっかりもっている人がいる。3人でもっているものを交換したら、おいしい白身魚フライ定食ができるやろ。その交換の仲立ちをするのがお金や。だからもってるだけでは意味がない。交換に使ってこそみんな幸せになるんやで」
お金は物々交換の道具だが、交換対象はモノに限らない。実際、哲夫が舞台を通して提供するのは笑いという無形サービスだ。ただ、「お金はサービスも超えた、理念とか考え方の仲立ちもしてくれる」が持論だ。
「寺子屋で学んだ後、大学生になって先生として戻ってきてくれた子がいました。おそらく寺子屋での勉強に感じるものがあって、それを大人になっても覚えていて、次の世代にも伝えようと思ってくれたんやろなと。子どもからは月謝をもらうし、先生にはバイト代を払います。でも、これってお金がお金じゃない循環。それがいちばん美しいかたちだと思います」
自身が塾に投資したお金も、お金として返ってくることには期待していない。
「僕が生きている間に間に合わなくていい。賢い子がたくさん出てきて地球を元に戻せたら、それが僕の配当です」
シリアスな表情でそう話した後、哲夫は慌てて否定、すぐ漫才師の顔に戻った。
「あかん、好感度上がりすぎですね。僕が将来不倫しても、寺子屋から巣立った子たちがマスコミや警察にいたら手加減してくれるから、いま投資してる。記事にはそう書いとってください(笑)」
笑い飯・哲夫◎1974年、奈良県生まれ。三輪山の参道のそうめん屋に生まれ育つ。関西学院大学哲学科卒業。2000年に西田幸治と漫才コンビ「笑い飯」結成。NHK上方漫才コンテスト最優秀賞(2003)など受賞多数。仏教にも造詣が深く、著書に『えてこでもわかる笑い飯哲夫訳般若心経』(ワニブックス)など。