2023年5月末、台北でアジア最大規模のICT見本市COMPUTEX TAIPEI 2023が開催された。現地ではNVIDIAのジェン・スンファンによる基調講演やASUS、Acer、MSIの巨大なブース出展が話題を呼んだ。
世界各国のスタートアップが集まる「InnoVEX」は、このCOMPUTEX内で7年前に始まったイベントだ。イタリア、フランス、ポーランド、台湾、日本などの国と各教育機関が出展し、ビジネスパートナーとのマッチングなどを目指す。このInnoVEXに今年、日本から熊本県玉名市と、公益財団法人日本台湾交流協会が初出展、また沖縄県も本格的なブースを設けていた。しかも沖縄県は、現地のスタートアップに焦点を当てたピッチコンテストにも参加、スポンサーとしてもイベント支援も行なっていた。
人口流出や企業の減少を食い止めを狙う玉名市
玉名は熊本県北部である中心的な市。今回の出展は台湾スタートアップを市に誘致するのが主な目的だ。台湾に目を向けたのは玉名市の関係人口(定住・観光ではない、地域や地域の人々と多様に関わる人)を増やすミッションがきっかけだったという。「日本国内で関係人口を増やそうとすると、都市部と地方の『パイの取り合い』になります。であれば、日本進出に興味を持つ海外に目を向けてはどうかと考えました」と同市の上平健太氏はいう。
玉名市役所企画経営部・地域振興課・地域振興係・地域おこし協力隊の上平健太氏
長くスタートアップ支援に関わってきた上平氏は日本進出を望む台湾スタートアップの増加傾向を把握していた。そこで、台湾スタートアップの課題を洗い出し、その解決に玉名市を活用してもらおうと考えた。
「台湾のスタートアップは市場調査をしたい。商品やサービスの受け入れの可能性をテストしたい。でもその場所がない。であれば玉名市がそれを提供しようと考えたんです」
TSMCの進出により熊本と台湾との結びつきが強まる中、各自治体はそれを追い風に成果をあげたいと考えた。観光の誘致、販路開拓などさまざまな方法がある中、玉名市は「市を実証実験の場として活用してもらう」ことにした。これは市としても、1つのチャレンジだった。
「進出のメリットは、合意文書(MOU)を結ぶまでの速さです。玉名は小規模な自治体で決定権者が少なく、迅速な意思決定が可能です。企業からの大規模投資や支店設立の強制もしません。まずは企業を受け入れ、市を気に入ってもらえれば良いという自由な姿勢をとっています」
それでも、同市は最終的には日本人と台湾人がタッグを組んで事業を展開することを目指している。日本のスタートアップは、国内市場である程度の成功を収められるため、海外展開に対する積極性は低い。一方、台湾のスタートアップは市場規模が小さいため、海外に進出せざるを得ない現状がある。台湾と日本のスタートアップが連携することで、それぞれに国際的な視野と市場を提供できると考えている。