2年ほどは、まともなメロディができない時期が続いたが、作曲家やメンバーと試行錯誤を繰り返し、2020年にサービスの基礎ができた。そこからは作曲レベルの向上と並行して、UIやUXを磨き、クリエイターの使いやすさや顧客サポート体制を高めていった。また海外のデザイナーをメンバーに加え、グローバルでも遜色ないデザインの追求も行った。
同年には国内のVCから累計2.8億円の資金調達を果たし、さらなる成長にアクセルを踏み込んだ。そして2022年末、SOUNDRAWにやってきた時流が、「ChatGPT」の登場だ。
「AI関連のサービスに一気に注目が集まり、SOUNDRAWのユーザーもグッと増えました。」
AI領域に狙いを定めたとしても、いつ着火するかは確実には予期できない。しかし、好機に備えて着実にサービスクオリティを高めていたことが成長を後押しした。国内外にファンが急増。使い勝手の良さだけでなく、デザイン性の良さを評価する口コミも多い。
最初に法人展開をしない
ユーザーからの支持を集めるため、楠はもう一つ意思決定をした。それは「法人向けサービスの展開をしない」ことだ。「いっときの売上は見込めるかもしれません。でも対企業に展開をすると、時間も人員も割く必要があり、ユーザーと向き合う時間が減る。世界にサービスを広げるためには、最初にやるべきではないと思いました」
やらないことを決めたことは、さらにSOUNDRAWを成長させた。
そして今年6月にはオーストラリア発のデザインプラットフォームCanvaとの提携も発表。Canvaとの提携のきっかけは、SOUNDRAWからのアプローチによるものだった。COOのタオ・ロメラが約2年間、LinkedInで見つけたCanvaの社員に手当たり次第、連絡をし続けたという。長らく梨のつぶてだったが、SOUNDRAWのスペイン人COOから、スペイン語で送ったメッセージに反応があり、先方が滞在していたサンフランシスコに出向いた。
「出会ったスペイン人がグローバルのコンテンツマネージャーで、そこからはすぐに話しが進みました。Canvaはデザインを民主化したサービス。僕らは作曲を民主化したい。ずっと手を組みたいと思っていたんです」
今後も、国内外の音楽プロデューサーやアーティストとのコラボを増やしながら、まだどこも成し遂げていない取り組みも仕掛けたいと語る。
「AIと人間は、勝ち負けの対立構造で語られがちだけど、AIをうまく使うことで人はもっといいクリエイティブを生み出せる。人の心を動かすのは、これからも人の想いです」
世界で共通する課題解決というビジネスモデルを選択し、ひたすらサービスを磨くことでグローバル展開を推し進めるSOUNDRAW。日本と海外の境界線を過度に意識せず、すべてのユーザーと等しく向き合うことで自然に世界で受け入れられているのが印象的だ。