「エル・ブジやノーマのように、美食の歴史に長期的な影響を与えると断言はできないが、もちろんその可能性はある。今回の受賞は、他のラテンアメリカやアジア、アフリカなど、これまで植民地だった国々が、自国の文化の重要性に気づき、地域の独自性を探る美食が生まれてくることを期待したい」
進む、美食の民主化
マルティネス氏は、セントラルのほかに、アンデス山脈にある遺跡のそばに「マテル・イニシアティバ」という研究所をつくり、地元の人々と共に畑を耕し、伝統品種の根菜を守るなどのプロジェクトを展開。また、同じ建物内にある姉妹店「ミル」を訪れるゲストに野山を案内し、その自然の素晴らしさを知ってもらうなどの活動など、学び合い支え合う、地域共生型の店づくりを行っている。受賞に際してマルティネス氏は、「自分たちの料理はファインダイニングを見直すことから生まれました。社会的な責任をもち、美しさを追求すること。それを通して、難しいことだけれども、手工芸やアート、クラフト、アート、先住民のコミュニティを守っていきたい」とコメント。
マテル・イニシアティバを担当する妹のマレーナ氏は「現代のガストロノミーは、他の分野を含めながら、食に関わる多くの人の努力できています。No.1になったことを契機に、より一層、彼らと共に成長していきたい」語った。
東京には、マルティネス氏の哲学を表現するレストラン「マス」がある。セントラルのヘッドシェフも務めたサンティアゴ・フェルナンデス氏が、ペルーと日本の文化が共通して持つ、自然への敬意を、両国の食材を使って表現しており、その哲学はより一層の広がりを見せていると言えるだろう。
限られた人々の楽しみだった「美食」から、社会貢献を行い、美食に興味のない一般の人々とつながる「美食の民主化」とも言える動きが進んでいるようにも感じられる。
人の感情に訴えかけ、人を動かすことができる美食の力に、多くの人が気づき始めたからこそ、それぞれのレストランやシェフが、「美味しいのその先」に何を見ているかが一層大切になってきているとも言えるだろう。「影響力があるからこそ、自分たちの行動には社会的な責任が伴う」と考えるトップシェフたちが一層増えているのだ。