お金との関係が人や組織、さらには社会にどのような影響を与えるのか。
そしてその関係が目標や成功、幸せの実現にどのようにつながるのか。長年探求する識者に聞く。
「お金は私たちに対して何を行うのか、そしてまた私たちはお金で何を行っているのか」。40年来この問いを追い続け、『30 Lies about Money』を執筆。「マネーワーク」と呼ばれるワークショップを世界で展開するピーター・カーニックにインタビューした。
─お金に関する研究を始められた経緯を教えてください。
最初のきっかけは、40年以上前、私が30代半ばのころに遡ります。当時の私はボストンで「戦略デザインコンサルタント」を名乗り、同僚たちと一緒に「卓越へのコミットメント」というセミナーを主催していました。経営者や経営陣をリトリートに連れていき、合宿をしながら、各自のビジョンやパーパスを見つけてもらう。参加者の企業が優れた業績をあげられる組織になることを目的とした、内容も形式も当時としては先駆的な取り組みでした。毎回十分な手応えがあり、参加者からも好評で、成功を確信していました。
ところが、このセミナーを始めてから、3、4年たっても、参加したCEOたちから思うような成果は出なかったのです。セミナーでビジョンやパーパスを発見して、そこに自分が情熱を感じる。そこまではいいのです。次の段階、即ち、ビジョンやパーパスを実現するための施策の実施に進み、予算の話が出た途端に、なぜかムードが激変してしまいます。あたかも、会議室にお金が入って来ると、ビジョンとパーパスが窓から抜け出していなくなってしまうかのようでした。
「深いところでいちばん大切に思っているものをとらえたのに、お金の話が出たとたんに逃がしてしまうのはなぜだろう?」という疑問を抱かずにはいられませんでした。
そこで、その答えを見つけるための調査研究のプロジェクトを企画したのです。1983年のことです。半年程度のつもりで始めたのですが、10年もかかってしまいました。