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2023.07.02

「送料別」でも月商差なし? 消費者は無料好きを疑え

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「送料無料」。

聞き慣れた言葉だろう。「運賃がかからないものと誤解を招く恐れがある」として、「送料無料」表示の見直し、また並行して再配達の削減が政府主導で進められている。その背景には物流の需要と供給が逆転すると危惧されている2024年問題がある。適正運賃の収受や再配達率の高さを課題に、まずは消費者の意識改革をする狙いだ。

運送業界からはこれまでも「運送の仕事が『送料無料』と謳われることで軽視されている」と声があがっており、その声が政府に届いた形だ。政府による見直しが始まるとの報道を受け、喜びの声もあがっている。

現状、対策の内容は明示されていない。消費者庁による運送会社と通信販売事業者にヒアリングが始まる段階だ。別途送料になるのか、表記上「送料弊社負担」などにするのかは、まだ不明である。

ECカート「送料無料」表記あり、なしで月商に大差なし

「無料」は言葉のインパクトが大きいため、PRによく使われる。しかし送料に関わる「無料」の実態は、商品価格に上乗せしているか、事業者が負担しているにすぎない。過去には通販モール大手の楽天市場が、「税込3980円以上の買い物で送料無料」の施策導入を出店事業者に対し一律に求め、問題となったこともある(送料無料ラインの導入は希望制になり、問題は沈静化)。

しかしここで改めて問いたい。本当に消費者は「送料無料」を求めてきたのか。

ECサイト・ネットショップの構築を支援しているGMOメイクショップ(東京都渋谷区)によると意外な調査結果があるという。ECカート「makeshop」内で発生した2023年5月までの全流通額をもとに抽出したデータで、送料無料表示「あり」と「なし」の店舗月商を比較した結果が次の通りだ。

A(送料無料表示あり)
└設定店舗数:8979
└平均月商:168万円

B(送料無料表示なし)
└設定店舗数:2961
└平均月商:191万円

「送料無料表示なし」の方が平均月商で23万円高い結果になっている。この差に送料分が含まれていることを加味しても、大きく売り上げに開きがないことがわかる。

この結果について同社でエヴァンジェリストを務める高橋和夫氏は「これまで客単価をあげたり、ついで買いを誘発したりするために、送料無料ラインを設ける施策は業界の常識でした。月商に大差がない事実に社内にも衝撃が走っています。この機会に常識を疑ってみてもいいのかもしれません」と話す。そもそも「無料」に大きな効果がなかったとすれば、必要性から見直す良い機会だ。送料無料表記の見直しについて、EC事業者からはポジティブな反応が多いという。
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文=田中なお 編集=石井節子

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