「リバー、流れないでよ」では、登場人物たちが2分間のタイムループをひたすら繰り返す。しかも前回の意識は引き継いだまま同じ2分間をやり直すため、登場人物たちはこのいつ終わるとも知れない時間の軛のなかで、あれこれ悪戦苦闘することになる。
タイムループを描いた作品としては、最近では「パーム・スプリングス」(マックス・バーバコウ監督、2020年)という作品があったが、こちらは死を迎えることで、同じ1日を何度も繰り返すというものだった。
「リバー、流れないでよ」で繰り返されるのは、「1日」ではなく「2分間」だ。作品のなかでもきっちり2分間ずつで描かれるタイムループからの「脱出劇」は、とにかく笑いとペーソスに溢れており、約1時間半の上映時間があっという間に過ぎてゆく。
初めにタイムルーブと貴船ありき
「リバー、流れないでよ」の舞台は、”京都の奥座敷”と言われる貴船。創建は奈良時代以前ともされる貴船神社を物語に織り込みながら、老舗料理旅館「ふじや」を中心にさまざまな人たちが登場する群像劇ともなっている。貴船神社のすぐ隣にある旅館「ふじや」は、道を挟んで本館と別館がある。仲居として働くミコト(藤谷理子)は、別館の裏を流れる貴船川のほとりに佇んでいたところ、女将(本上まなみ)に呼ばれて仕事へと戻る。
突然の異変に驚く仲居のミコト(右)と番頭 (c)ヨーロッパ企画/トリウッド2023
しかし2分後、ミコトは何故か前と同じ貴船川のほとりに戻っている。異変は彼女だけに起きたのではなく、旅館の従業員や宿泊客たちも、このタイムループに巻き込まれていた。
2分で元に戻り、いつまでも熱くならない熱燗に業を煮やす従業員。部屋で鍋料理を前にしていた宿泊客は、2分間の繰り返しのなかで食べても食べてもなくならない締めの雑炊に手を焼いていた。
宿泊客の2人は鍋料理を楽しんでいたが (c)ヨーロッパ企画/トリウッド2023
原稿執筆のため投宿していた小説家は、このループが続けばいつまでも締め切りが来ないことに安堵。また小説家が執筆している間に風呂へと出かけた編集者は、裸のまま浴室に取り残されていた。
締切が迫った原稿執筆のため旅館に投宿していた編集者と小説家 (c)ヨーロッパ企画/トリウッド2023
きっちり2分間経つと、全員が元に戻ってしまう。しかもその間の「記憶」は残るため、この異常現象の究明に力を合わせて奔走することになる。本館の3階で対策会議が開かれるなか、仲居のミコトは「もしかしたら原因は自分にあるのではないか」と悩み始めるのだった。