ゲストは、太陽光・風力・小水力・バイオマスによる再生可能エネルギー発電所の開発・アセットマネジメント、エネルギーテック事業を手掛ける自然電力の代表取締役である磯野謙氏と、同社取締役の磯野久美子氏。サスティナビリティが求められる現代において、強い求心力を持つビジョナリーな企業経営や組織運営のあり方に迫った。
社員と会社のWillを重ねるいくつもの仕掛け
2011年6月、東日本大震災を機に再生可能エネルギー100%の世界をつくるべく立ち上がった自然電力。「青い地球を未来につなぐ」をパーパスに掲げ、世界中で約1GW(原子力発電所1基分)ほどの規模の再生可能エネルギー発電所に携わってきた。冒頭、堀尾はゲストに自然電力を招いた理由を「サスティナブルや循環型社会というキーワードが普及する以前から、その領域のど真ん中で事業を手掛けてきた企業。組織に集う方々もビジョナリーな方が多いからこそ、人的資本分野のヒントとなる話が伺えそうです」と説明した。
谷本氏も「『この会社に入りたい』と思う入口の部分は、パーパスや存在意義に資するところが大きいもの。自然電力には、社員が自身のWillと会社のWillを重ね合わせて働ける環境があるのかも知れません」と続けた。
こうした見解を受けて自然電力取締役の磯野久美子氏は、創業時に20年計画を立て、長期スパンで社会課題解決へのロードマップを描いてきたと述べ、壮大なビジョンや事業戦略を実現するために、強い組織を構築する必要性を語った。
「創業当初のなかなか採用が難しかった頃から、パーパスに強く共感いただける方のみを採用するというこだわりを貫いてきました。採用市場を日本だけでなく世界に広げて、積極的に多国籍のクルー(※)を採用しています。さまざまなバックグラウンドや価値観を抱える人と協働できる器を持った企業であるべきですし、個々人もそれぞれのパーパスを持っている中で、彼らが人生の貴重な1ページを割くに値する環境や経験を提供しなければならないと考えています」(磯野久美子氏)
※ 自然電力グループでは会社を大きな船に例え、社員のことを「クルー(乗務員)」と呼ぶ
多様性を育みつつ組織を円滑に運営するためには、国やカルチャーの特性を踏まえながら共通のルールやバリューを構築する必要がある。自然電力も、まずは「20の行動指針」を策定。ただ一度作って終わりではなく、後でわかりやすく4項目にまとめ直したり、具体的なアクションに落とし込んだ「dos and don'ts(心得集)」を作成したりしながら、社員がバリューに沿った行動を起こしやすい基盤を整備している最中だという。
ここで堀尾から、「シンプルに言語化し、組織に浸透させていく作業は難しいですが、どのように工夫されているのでしょうか」という問いが投げ掛けられた。磯野久美子氏は、昨年から行っている組織ビジョン策定の取り組みに言及。
「事業のロードマップとは別に、『私たちはどんな組織体を目指したいのか』を言語化した組織ビジョンの策定に取り組んでいます。数年前にはワード10ページ分ほどにまとめていましたが、浸透させるのが難しかった経緯があるため、大事なエッセンスだけを凝縮してパワーポイント1枚分のシンプルなものにまとめ直しています。組織ビジョンが完成したらクルーみんなで読み込んで、ディスカッションをする場を設ける予定です」と答えた。