洪水が起こりやすい傾向から、低地の沿岸都市の多くは防潮堤の建設、道路のかさ上げ、人工バリアや堤防、岩礁の設置など、 街を保護するためのインフラに投資するようになった。これらの構造物は洪水の影響を抑えたい都市の基本的な選択肢となっている。2017年には米国の海岸線全体の14%がこの方法で強化され、この割合はさらに増えそうだ。
だが現実には防潮堤は磨き上げられた解決策ではなく、建設にはかなりの費用がかかり、メンテナンスも必要だ。ニューヨークの沿岸を嵐から守るための米陸軍工兵隊の最新の計画の費用は526億ドル(約7兆4300億円)だ。また、防潮堤を築くためのスペースを作ることは、動植物の生息環境の破壊や移動を引き起こす。2016年に発表された論文で「防潮堤は人間の手が入っていない海岸線に比べて生物多様性が23%低く、生物は45%少ない」と指摘されている。既存の堤をさらに高くする必要があるなど、恒久的な解決策になることはほとんどない。
また、米地質調査所(USGS)とロードアイランド大学(URI)の研究者グループが指摘したように、ニューヨークにとっての脅威は海面上昇だけではない。絶え間ない建設のために地盤沈下が進んでおり、洪水リスクを高めている。
地盤沈下は、自然現象と人間の活動の両方から生じる地表の沈みを表す包括的な用語だ。地震、侵食、地下水の汲み上げ、採掘などはすべて土壌や岩石の下方への垂直移動を引き起こし得る。学術誌『Earth's Future』に掲載された誰でも無料閲覧できる論文で、USGSとURIのチームは「建築環境による累積質量と下方圧力」がニューヨーク全体の地盤沈下に与える影響を取り上げた。つまり研究チームはニューヨークの建物の総重量を計算しようとした。地質学的な知見を取り入れることで建物が引き起こしている地盤沈下の度合いをミリ単位で推定することができるかもしれないものだ。
研究チームはマイクロソフトの無料公開データベースを通じてニューヨーク市5区にある全108万4954棟の建物の面積と高さを入手。各ビルの総面積を求め、また平均的な建物の重さなどを考慮してニューヨークの建物の総重量は7620億キロで、面積778.2平方キロに分布しているとの推定値を算出した。
ニューヨーク市の表層地質は広く研究されているが、かなり複雑だ。「沈泥、砂、粘土の湖沼堆積物、氷河期の堆積、流出土砂、ティル、海岸堆積物、露出した岩盤」、さらに水際に沿った人工的な盛り土などがある。このため、すべての建物の下の土壌を正確に把握することはできない。また、計算対象となった建物は100万棟以上あるため、それぞれの建物の具体的な基礎様式に関する情報はかなり限られている。そこで、研究者たちは、地域ごとの土壌と岩盤のモデルを作成し、それを適用した。