ここ何十年かの間、卒業式でのスピーチや書籍、ブログなど、さまざまな場面で、こうしたメッセージが発信されてきた。だが、ジャーナル・オブ・パーソナリティ・アンド・ソーシャル・サイコロジー(Journal of Personality and Social Psychology)に掲載された論文によると、そう勧められた学生や若者たちには「男女それぞれの性別に期待される」分野の仕事を選ぶ傾向がみられるという。
女性は医療関係のほかサイエンス以外の分野、男性はビジネスとサイエンス分野の仕事を選んでいた。つまり、女性の多くは典型的に女性らしいと考えられる分野の仕事を選んでいたことがわかった。
一方、調査対象者に「雇用の安定や収入など、現実的な問題」を考えて選ぶよう伝えたところ、職業や専攻する分野の選択における男女差は縮小したという。こうアドバイスされた女性たちの間では、男性が圧倒的に多いコンピュータサイエンスや工学など、より高収入が期待できるSTEM分野を選択する可能性が高まっていた。
この研究論文の筆頭筆者であり、グーグルでユーザーエクスペリエンスの研究を行うオリバー・サイは、一見当たり障りのない、若者たちを鼓舞するようなこのアドバイスが、いかに性別に基づいた職域の分離につながっているかという点を指摘している。
生来「情熱」の対象は決まっている?
研究チームは、この「情熱に従え」というアドバイスは、女性たちに公平な機会を与えるのではなく、男性優位の分野を自身が情熱を傾け得るものとして見ることを妨げるものではないかと指摘している。男女それぞれの関心事は、生物学的な理由や性自認によって本質的に異なるとの見方もある。だが、サイはそうした見解に同意しないという。私たちが興味を持つようになるものには、社会化(社会的適応)が大きく影響しているという。
男女がそれぞれに特有といえる関心事を持つようになるのは、社会化や経験に違いがある結果であり、情熱に従うよう促すことは、新たな関心事を見つけることではなく、すでに関心があったことに的を絞るよう勧めることになると述べている。
過去に行われたその他の研究でも「情熱に従うよう促すことは、仕事を探す人への最善のアドバイスではない可能性がある」との結果が示されている。こうしたアドバイスは「情熱」は固定的なものであり、変化しないものだと伝えることになるためだ。
ベンチャーキャピタリストのベン・ホロウィッツは2015年、コロンビア大学の卒業式でのスピーチで「情熱に従ってはいけない」「情熱は時間とともに変化するものであり、情熱を持てるものが、自分の得意なものとは限らないのだ」と若者たちに忠告した。
そして「好きなことを仕事にするのが成功への道」との考え方に疑問を呈し、次のように語った。
「成功を収めた1000人を対象にアンケート調査を行えば全員が、自分の好きなことをしていると回答するだろう。そのため、広い意味で捉えれば、好きなことをすれば成功するという結論になる」
「……だが、それは同時に、成功すれば、自分のしていることが好きなるということの可能性もある。ただ単に、成功しているということが気に入っているだけなのかもしれない」
(forbes.com 原文)