パリとネズミ、逸話は盛りだくさん
ネズミは、14世紀に当時の人口の約半数を死に至らしめた黒死病(ペスト)流行の主要な感染経路だった。やがて、訓練されたネズミを使ったショーやレース、決闘なども登場した。ヒ素で駆除されたり、金儲けの手段として追われたりもした。ル・ポワンによれば、パリ市が雇ったネズミ駆除の専門業者は、駆除したネズミの尾と引き換えに報酬を受け取っていた。一晩で2500匹以上が駆除される日もあったという。皮は1匹当たり10サンチームで革なめし業者に売られ、シックな最新流行の手袋に加工されて、ロンドンの紳士淑女の間で人気を呼んだ。
1870年に起きた普仏戦争でパリがプロイセン軍に包囲された際には、ネズミが飢えに苦しむ市民の主食にさえなった。「中毒を起こさないよう念入りに下ごしらえをして調理されたネズミは、飢えきった市民たちの腹を満たした。ネズミの味は鶏肉に近いと言われていた。1870年の冬の間ほど、パリ市民にとってネズミが身近な存在だったことはない」と伝わる。
生ゴミとストライキ
イダルゴ市長は「ネズミが増殖している主な原因」は路上のゴミだとして、市民向けの「予防」と「言葉がけ」のキャンペーンに加え、2017年に数千個のゴミ箱と罠を設置して始まったネズミ根絶キャンペーンを今後も維持していくと説明した。市長はネズミ対策が不十分だとして激しく批判されている。特に今年に入り、エマニュエル・マクロン大統領の定年引き上げに抗議する全国的なストライキが3月に行われると、パリ市内にはゴミの山が散乱し、市長への非難も高まった。
だが「人間とネズミは共存できるのか?」と米CNNは疑問を呈している。「パリはそれを見極めようとしている」
パリ市の新たな取り組みは「パリのネズミ対策を支援し、都市の生物多様性に関する理解を深める」ことを掲げて進められている研究「プロジェクト・アルマゲドン」の一環だ。
市長室によると、市当局は「パリのネズミに『重大な』公衆衛生上のリスクはない」としつつ、仏公衆衛生高等評議会(HCSP)に科学的な助言を求めている。とはいえ「それは、ネズミに街中で好き放題させるという意味ではない」という。
一方、動物愛護団体は市の取り組みを称賛している。動物の権利擁護を訴えているParis Animaux Zoopolis(パリ・アニモー・ズーポリス)は、パリにも他のフランスの都市にもネズミが生息している以上「共存の問題は必然的に生じる」と主張。環境保護の側面からみて「ネズミは生態系に有用な存在」であり、ネズミに対して「異常な恐怖」を抱くのは「不当だ」としている。
(forbes.com 原文)