食&酒

2023.06.17 09:00

木桶で酒をつくる「新政酒造」の8代目が、祖父から学んだこと

田中友梨
酒造りへのこだわりは、赤字脱却とともに加速していきました。僕は、日本酒の良さは「手づくりの凄み」みたいなところにあると思っています。ですので、経営状態が良くなると同時に、機械をどんどん減らして人を増やしました。

うちには最新型の温度管理ができる仕込みタンクがあったのですが、それも使うのをやめて、代わりに杉の木桶を入れて。手間はかかるけれど、日本酒本来の魅力が掻き立てられるような伝統的な手法にシフトしていきました。

木桶は使い込むとさまざまな微生物が住み着くようになり個性的なお酒ができます。現在は46本の木桶があり、すべてのお酒を木桶で仕込めるようになりました。

撮影=堀清英

この手法を取り入れるにあたっては、江戸時代や明治初期の文献を片っ端から読んで勉強しました。今はもう誰もできない技術なので、職人とも一緒に学びながら成長してきました。今も日々トラブルが起きますが、その度に対処法を考えたり文献を読み直したりしています。

こうした伝統的な手法はとてもお金がかかるので、経営状態が悪いとできません。ただ、日本酒造りは伝統産業なのに、今や機械化が進んでしまってほとんど手造りされていないのは良くないなという思いがあり、挑戦を続けています。

「ジャーナリスト」の視点があったからこそ

新政酒造で酒造りをしていくなかでも、「なんでこんな素晴らしいものがあるのに、みんな知らないんだ」というジャーナリストとしての精神は持ち続けていて。業界全体の底上げが必要だという思いから、2010年に秋田県内の若手蔵元と「NEXT5」を結成しました。県内の5蔵で技術交流や共同醸造、合同イベントの開催などをしています。

そしてコロナ禍の2020年には、日本酒と焼酎の計48蔵(2023年6月現在)が参加する「一般社団法人J.S.P」を設立。コロナ禍を機に、酒販店や飲食店だけでなく消費者とのつながりを深めようと、YouTubeチャンネル「UTAGE」やイベントなどで情報発信を行っています。

ただお酒の味が美味しいということだけじゃなくて、原料や酒造りへのこだわりなども含めて皆さんに知っていただきたいんです。それが伝統産業の魅力だと思います。知れば知るほど日本人であることを誇りに思えるというか。日本酒と日本人は、もっと精神的なつながりを持てるはずなので、そういうふうにお客さまを導いていきたいですね。
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文=田中友梨

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