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2023.06.23 11:00

ライフサイエンス領域のDX、鍵となるセキュリティ、税務の課題とは

ライフサイエンス領域、特に製薬企業においてデータやテクノロジーの利活用が進んでいる。

創薬の効率化や価値創出などが期待される一方で、ライフサイエンス領域ならではのセキュリティや税務からの課題も指摘される。KPMGジャパン ライフサイエンスセクターの専門家が解説する。


新型コロナウイルスのワクチンにより、あらためて創薬の価値が再認識された。

製薬企業がコロナ禍以降も確実に成長するためには、研究・開発や営業活動の高度化、効率化が必要だ。例えば、莫大なコストと期間がかかる研究開発では、開発期間の短縮が最大のミッションとなる。

MR(医薬情報担当者)はコロナ禍で病院を訪問する機会が激減し、デジタルチャネルの構築が必須だ。また、近年のライフサイエンス業界においてはスタートアップからパイプラインの提供を受けるといったエコシステムの確立が欠かせない。

そこで、一層のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が業界の課題となっている。KPMGジャパンの赤坂亮はDXがもたらす製薬業界への価値を次のように語る。

「AI(人工知能)が創薬ターゲットの仮説づくりやリコメンデーションを担うケースのほか、化合物やゲノムのデータなどを扱う専門性が高いAIの開発もエコシステムにおいて進んでいます。また、デジタルを用いたリモート治験の事例が増えており、開発の効率化がなされています」 

営業や研究開発などの各現場で進んでいる製薬企業のDXだが、赤坂は「経営イシューとして扱うべき」と警鐘を鳴らす。

「各部門が目先のテーマにとらわれるのではなく、全社で中長期のゴールを定め、全体像を描くことが重要です。部門横断で、攻めと守りからDXのインパクトを見いだしていくべきだと考えます。さらに全社で研究データや治験データを共有していけば、約3万分の1ともいわれる創薬の成功確率を上げられるでしょう」

また、最近のライフサイエンス領域では、データの利活用や最先端テクノロジーによって予防や予後、健康維持などのサービスを高度化させる「スマートヘルス」が注目されている。

「スマートヘルスは、ウェルビーイング維持・改善のためのデジタルソリューションだと考えています。その実現に向けて、エコシステムやステークホルダーを支援したいと考えています」(赤坂)
KPMGジャパン ライフサイエンスセクター アソシエイトパートナーの赤坂亮

セキュリティ対策も必須

製薬業界においては、前述のようにエコシステムの構築が必須となっている。そのため、研究開発や臨床試験にまつわるデータ、患者や治験参加者の個人データといった極めて秘匿性の高いデータの授受が企業間で頻出する。

近年では、ゲノムデータをAIやML(機械学習)で処理することも多く、従来のセキュリティ対策の水準では不十分なケースもあるという。

KPMGジャパンの宮原潤は、「スタートアップや医療機関、CRO(医薬品開発業務受託機関)など、セキュリティが脆弱になりがちなところが狙われやすい」と指摘する。

万が一、データの漏えいが起きれば、関係者への説明や損害賠償だけでなく、イメージダウンも避けられない。

「AI、MLを対象とする国際的なガイドラインへの対応を含め、サイバーセキュリティ対策の強化は喫緊の課題。また、エコシステム化された状況下では、自社がエコシステム内のどこに位置しているのかを理解するとともに、重要な情報資産は何か、それはどこにあり、エコシステム内をどう移動しているかを特定することが重要。それにより、リスクベースのアプローチが可能になります」(宮原)

仮にエコシステムにおいて、とある1社がデータ事故を起こした場合、全体に影響が起こる可能性も否めない。

そのため「すべてのパートナー企業らとのネットワークの接続形態やデータ共有の状況を含むセキュリティ対策の全般について、積極的に把握することが必要」と宮原は提言する。
KPMGジャパン ライフサイエンスセクター パートナーの宮原潤

移転価格などの税務対応も

ライフサイエンス業界でDXを進めるにあたって、税務部門の参画も欠かせない。

KPMGジャパンの鈴木彩子は、その意味を次のように解説する。

「近年、各国では多国籍企業の過度なタックスプランニングによる租税回避を注視しており、OECDとG20諸国が中心となり租税回避への対抗策である『BEPS』の取り組みも行われています。租税回避行為を行っていなくとも、『BEPS』における国際課税ルールの見直しは企業のビジネス展開に直接影響します」

グローバル化を軸に成長を続けるライフサイエンス企業にとって特に重視すべきは移転価格(親会社と海外子会社との取引価格)の決め方だ。企業は移転価格を決める際、税務を意識しつつもグループ全体としての収益拡大を重視した価格設定も実現したいとの思惑がある。

一方、課税当局としては、グループ内で適正に利益が配分されているかを注視しているのだ。

そもそも無形資産の価値が莫大な収益の源泉となる医薬品においては移転価格の評価が難しいうえに、DXによってさらに複雑さを増している。AIによる創薬などDXによって生み出された価値をグループ内の国際取引でどう適正に値付けするかは新たな領域であり、各社も課税当局も頭を悩ませる問題だ。

企業側は、万が一の追徴課税を受けるリスクを避けるため、慎重に検討しなければならない。

「一般的に、DX推進プロジェクトは事業部門だけで進められがちですが、どのようなグループ内取引が行われるか、拠点間の役割分担や取引価格の設定など、内容だけでなくタイミングも税務リスクにかかわってきます。そのため、情報共有も含めて税務部門が青写真を描く段階から関与することは非常に重要といえます」(鈴木)

KPMGジャパン ライフサイエンスセクター パートナーの鈴木彩子

ライフサイエンス領域でDXを進めるにあたっての論点は多岐にわたり、かつ複雑に絡み合う。

KPMGジャパンは、コンサルティングや税理士法人など、複数のグループ会社が一体となってクライアントを支援するのが特長だ。

「定例ミーティングなどで、グループ各社のメンバーが議論を重ねているので、顧客からの要望に多面的な提案をできるのが強みです」(宮原)

「KPMGジャパンとしてグループ法人全体が一体となって動いています。横串が通っている組織で、総合力を発揮できることがメリットだと思います」(赤坂)

「さらには、グローバルファームとして海外拠点との関係性が充実しているのも特長ですね」(鈴木)

ライフサイエンス領域のDX化にまつわる複雑な課題に対し、KPMGジャパンはその総合力で支援していく。


みやはら・じゅん◎KPMGジャパン ライフサイエンスセクター パートナー。SIer、コンサルティング会社などを経て、2016年にKPMG入社。主にライフサイエンス・ヘルスケア領域のリスクマネジメント関連業務を担当。

すずき・あやこ◎KPMGジャパン ライフサイエンスセクター パートナー。アーサーアンダーセンを経て、2002年にKPMGに移籍。ライフサイエンス業界を含むさまざまな多国籍企業の移転価格にまつわるアドバイザリー全般に従事。

あかさか・りょう◎KPMGジャパン ライフサイエンスセクター アソシエイトパートナー。NEC、IBM、Philipsを経て、2021年にKPMG入社。ライフサイエンス・ヘルスケア領域のデジタル、イノベーション業務を担当。東北大学未来型医療創造卓越大学院 特任教授(客員)。

Promoted by KPMGコンサルティング / text by Takako Miyo / photographs by Kei Ohnaka / edit by Kaori Saeki

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