6月14日にNatureで公開された論文では、土星で6番目に大きい衛星エンケラドゥスでリンが検出されたことを報告された。DNAとRNAの生成に必要なリンは、生命の存在に不可欠な元素だと考えられている。
この発見は、5月にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、エンケラドゥスから氷粒子と水蒸気と有機化合物からなる長さ9600kmの巨大な水柱が宇宙に向けて放出されていることを発見した直後のものだ。
大きな一歩
これまで地球以外の海で発見されたことはなく、エンケラドゥスにはほとんど存在しないと考えられていたリンの検出は、太陽系の海洋天体(ocean world)の理解を大きく前進させるものだ。土星の衛星タイタン、木星の衛星エウロパ、カリスト、ガニメデ、天王星の衛星のいくつかおよび小惑星帯のセレスなども海洋天体だ。新たな発見は、NASAの探査機カッシーニが収集したデータに基づくもので、同探査機は2004年から2017年まで土星を周回した。その間にカッシーニは、エンケラドゥスから放出される長さ数百kmの噴流を目撃し、搭載されていた宇宙塵分析器は噴流の中の氷粒に関するデータを収集することに成功した。
そのデータを新たに分析した結果、リンの存在が明らかになった。これは生命ハンターたちにとって決定的に重要だ。なぜなら生物学的プロセスにリンが必要であるだけでなく、氷の天体ながらエンケラドゥスには生命を育む可能性のある環境、地下海があるからだ。
その地下海こそが、氷の粒の生まれた場所だ。
地下海
わずか直径500kmのエンケラドゥスは、土星および土星の他の衛星の引力で地質学的に活発だ。エンケラドゥスには氷地殻の下に深さ40kmの液体の水からなる海と岩石質の海底があるため、地球外生命を探究する宇宙生物学者にとって最大の目標となっている。熱水噴出孔の周辺には微生物やextremophiles(極限環境生物)が存在している可能性があると考えられている。そこはまさしく大量のリンが存在している可能性があると研究者たちが考えている場所だ。
噴流の中でオルトリン酸イオンのかたちで検出されたリンの濃度は、エンケラドゥスの海ではリンの濃度が地球の海より100倍高い可能性があると研究者らが計算した値だった。
NASAの探査機カッシーニのデータに基づく土星の衛星エンケラドゥスの内部構造図。氷地殻と岩石コアの間に液体の水からなる海が広がっている(NASA/JPL-CALTECH)
着陸船を着陸させるオービランダーミッション
NASAのオービランダー(OrbiLander)ミッションには、エンケラドゥスに着陸して、リンの存在をはじめ多くのことを確認するチャンスがある。暫定的に2038年10月に打ち上げ予定(予備日程は2039年11月)のエンケラドゥス・オービランダー・ミッションは、エンケラドゥスを1日に2回、200日間周回し、噴出する水柱の中身を、より近くでより高度な機器を使用して採取する計画だ。なによりも重要なのは、その後オービランダーが小型の着陸船をエンケラドゥスの表面に着陸させ、2年間滞在して、噴流から戻ってきた物質、小さな衛星をあんなに明るく光らせている物質を採取することだ。
(forbes.com 原文)