PGAツアーとLIVゴルフの「電撃統合」から目が離せないワケ

PGAツアー・コミッショナーのジェイ・モナハン氏(Photo by Tracy Wilcox/PGA TOUR)

先週突如ゴルフ界の衝撃的ニュースとして報じられた、米男子ゴルフのPGAツアーとサウジアラビアの政府系ファンド「PIF」が支援するLIVゴルフの「統合」。これには単純かつ複雑な背景がある。

「統合」という言葉に注意が必要であることは後に述べるとして、2年前のLIVゴルフ設立以来続いてきた両ツアーの激しい対立に、ようやく終止符が打たれたと歓迎の声もあがっているが、この騒ぎは未だ当分収まりそうにない。

統合が騒ぎになったワケ

PGAツアーはゴルフファンにはご存じの方も多いだろうが、北米で世界のトッププロが参加するトーナメントを運営する「非営利団体」だ。

1968年に全米プロゴルフ協会からツアープロのための組織として独立し、1975年に現在の名称「PGAツアー」と改称した後、子会社を介しての放映権やマーチャンダイジング権の販売、ゴルフ場「TPC(トーナメント・プレーヤーズ・クラブ)」の設計、不動産開発まで幅広く手掛け、米国のゴルフ産業の頂点に君臨してきた。

LIVゴルフは、PGAツアーの運営を「保守的」と評し、より高額な賞金や放映権料を見込めるエリート選手だけが出場できる「スーパー・リーグ」構想を打ち出すなど批判的姿勢を示し続けてきたグレッグ・ノーマンがCEOを務め、PIFの巨額の資金力をバックにフィル・ミケルソンはじめPGAツアーの主要選手を引き抜き、僅か2年で存在感を拡大してきた。

もちろんPGAツアーがそんな「選手引き抜き」に手をこまねいていたわけはなく、LIVゴルフ参戦選手に対して、PGAツアーの出場資格停止処分を下していた。

そして、両ツアーの対立は、LIVゴルフ側がこのPGAツアーが下した処分について、反トラスト法(独占禁止法)違反の訴訟を起こし、PGAツアーも「LIVゴルフこそPGAツアーを妨害している」と反訴するという、泥沼の法廷闘争にまで発展していた。

スポーツ・ウオッシングとの批判も LIVへの移籍金はケタ違い

PGAツアーのジェイ・モナハン・コミッショナーはLIVゴルフに対して、「人権侵害などが問題視されているサウジアラビア政府が、自国のネガティブなイメージを洗浄、払拭するためにスポーツを利用する『スポーツ・ウオッシング』を図っている」と強い批判を続けてきた。

更に「9.11遺族会」とも連携し、遺族会はLIVゴルフに対する危惧を表明していた。

PGAツアーに忠誠を尽くす選手たちも多く、世界ランキング1位在位通算100週超えを史上3人目で達成した34歳ローリー・マキロイは、PGA側のスポークスパーソン的なアンチLIVコメントを繰り返し発信してきた。ご存じタイガー・ウッズも「PGAツアーは選手のためにもっと稼ぐ努力を惜しむべきではないが、選手は自らのツアーを裏切るべきではない」といった発言をしていた。

LIVゴルフに移籍した、メジャー6勝・PGAツアー通算45勝を誇るミケルソンは2億ドル(約280億円)、元世界ランキング1位の38歳ダスティン・ジョンソンは1億2500〜5000万ドル(約210億円)で契約したとされている。

さすがにマキロイにはLIVゴルフからのオファーはなかったそうだが、ウッズには7~8億ドル(約986~1120億円)、松山英樹にも4憶ドル(約563億円)が提示されていたと言われている。

松山英樹は全米オープンの会場で13日、LIVゴルフのオファーを断ったことに後悔は「全くない」と話した(Photo by Keyur Khamar/PGA TOUR via Getty Images)

松山英樹は全米オープンの会場で13日、LIVゴルフのオファーを断ったことに後悔は「全くない」と話した(Photo by Keyur Khamar/PGA TOUR via Getty Images)

3団体で新組織設立 「密室決定」に混乱収まらず

しかし、事態はモナハンによって突然覆された。

PGAツアー、DPワールドツアー(欧州ツアー)、PIFの3団体による新たな「営利組織」の設立と事業の統合が発表されたのだ。会長にヤセル・ルマイヤンPIF総裁、CEOにモナハンが就き、訴訟は全て取り下げ、終結するという。名称は未だ決まっていない。
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文=北谷賢司 編集=宇藤智子

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