経済・社会

2023.06.18 09:00

ウラジオストクの北朝鮮母子失踪事件、その「舞台」は閑散としていた

北朝鮮がウラジオストクで経営していたレストラン「高麗館」=2019年12月当時

それでも、北朝鮮当局の監視下から逃れる人が相次いでいる。北朝鮮当局は、監督責任を問われるため、必死で逃亡者を捜す。人権活動家によれば、北朝鮮関係機関は逃亡者を捕まえるために懸賞金を出すことがある。過去、100万ルーブル(約170万円)の懸賞金をかけた例もあったという。懸賞金目当てに行方不明者を捜す業者があり、金を払って行方不明者が持つ携帯の通話履歴を手に入れて、調査する。人権活動家は「不明者のほとんどは、通話がきっかけで捕まっている」と語る。
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当局が発見できなかった場合は、行方不明者として処理するが、外国メディアの報道などから、逃亡者が韓国などに逃れたことが、後で発覚することもある。そうなれば、北朝鮮に残る家族が政治犯収容所に送られる可能性が高まるという。

この活動家は、母子が行方不明になった原因がどうであれ、発見される可能性が高いと指摘する。「ロシアは今、戦争中だ。韓国など、ロシアが友好的でないと判断した国々との接触手段が限られているからだ」という。そして、国際社会から孤立するロシアと北朝鮮は最近、急速に接近している。

朝鮮中央通信によれば、金正恩総書記は「ロシアの日」に当たる12日、プーチン大統領に祝電を送った。「国の主権と安全、平和な生命を侵奪しようとする敵対勢力の増大する脅威と挑戦を粉砕するためのロシア人民の闘いは、あなたの正確な決心と指導の下に新たな転換的局面を迎えている」と指摘し、「正義は必ず勝利し、ロシア人民は自身の固有の伝統である勝利の歴史を引き続き輝かしていくであろう」と強調したという。同通信は9日にも、ウクライナ・ヘルソン州のカホウカ・ダム決壊について「ゼレンスキー当局が米国の黙認の下に特大型犯罪を行う動機は十分である」として、ロシアを全面的に擁護する朝鮮国際問題研究院関係者の論評を伝えた。
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人権活動家によれば、1996年に韓国の在ウラジオストク総領事館で働く韓国総領事が殺害される事件が発生したことを契機に、ロシアは、北朝鮮がロシア領内でテロ行為を働かないことを条件に、逃亡した労働者を北朝鮮に送り返すことに協力する秘密協定を結んだ。ただ、ロシア当局が、国連の人権理事会や国連難民高等弁務官事務所などによる脱北者の難民認定と救済活動を妨害してはこなかったという。ロシアの姿勢は、脱北者を難民と認めず、不法入国者としてすべて北朝鮮に強制送還する措置を取っている中国よりは柔軟だという評価も受けてきた。

しかし、それもウクライナ侵攻を契機としたロシアと北朝鮮の接近により、どこまで維持されるのかはわからない。ロシアが北朝鮮に対する配慮から、捜索活動に積極的に協力する可能性もある。行方不明になった北朝鮮の母子の安否は依然、明らかになっていない。

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