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2023.06.19 08:30

凸版印刷が「ミラーワールド」の構築に挑む理由

凸版印刷 の有馬慶

人工知能、アバター、XR、メタバースなど、テクノロジーの急激な進化により人の暮らしとヴァーチャルな世界がシームレスになりつつある昨今。多くのモノ、コト、ヒトがデータとして記憶できるようになり、デジタルとリアルの垣根は日に日に曖昧になっている。

そんな仮想空間の可能性を追求する共創プロジェクトが『GEMINI Laboratory』だ。リアルとヴァーチャルが接続・同期された世界の実現を目指し、様々なプレイヤーと議論や調査研究を行っている。

このプロジェクトの中心に立つのは凸版印刷だ。なぜ凸版印刷が「ミラーワールド」と呼ばれる仮想空間の構築に挑むのか。GEMINI Laboratory PROJECT LEAD の有馬慶氏(凸版印刷)に話を聞いた。

印刷会社がミラーワールドを構築する意義

——2022年9月に始動した「GEMINI Laboratory」。プロジェクトの概要は。

凸版印刷はこれまでに、木目や石などのテクスチャ・質感を忠実に再現した高意匠の建装材を提供してきました。「GEMINI Laboratory」ではこれらのノウハウを活かし、ミラーワールドやメタバースを始めとする仮想空間上にこれらの、テクスチャ・質感を実装できるデータベースを構築することを目的としています。

アーティスト、建築家、研究者など様々なプレイヤーとの共創で、仮想空間に関するアイデアの議論・検証・社会実装を促していくプロジェクトです。



——このプロジェクトが目指す「ミラーワールド」とは、どのような世界でしょうか。

デジタルだけで完結する世界ではなく、デジタルとリアルの両方の世界をオーバーラップさせ、接続するような世界です。世界を多層化するイメージで、デジタルをレイヤリングすることで、リアルに対してどう価値を提供できるかを考えています。

デジタルツインのような、現実をコピーしたデジタル世界ではなく、リアルとデジタルから分岐する部分がうまく混ざり合っていくような世界をイメージしています。

——“ミラー”には同一性というニュアンスもありますが、そこに留まらないイメージですね。印刷の総合会社である凸版印刷が、なぜGEMINI Laboratoryの立ち上げに至ったのでしょうか。

凸版印刷は、印刷からスタートしつつも、その時代の変遷に合わせて業容を柔軟に進化させてきた会社です。デジタル領域も手がけていて、僕が所属する建装材の部署でも、従来の建材の枠を超えた商材を扱っています。

その環境下で、元々僕が、デジタルとフィジカルの曖昧な境界やその重なり合いを考えることに興味を持っていて。建築領域で空間デザインもしながら何か新しいことができないかと考えていた時に、会社の中で事業変革に資する新たな取り組みを支援する仕組みがスタートしたんです。

そこでGEMINIを提案して採用されたという経緯です。プロジェクトの名前は、12星座の双子座と、アポロ計画の前に基盤技術の検証を行ったプロジェクト“Gemini”から命名しました。プロボノで宇宙スタートアップのデザインにも携わっていたので、それも重ね合わせています。

「GEMINI Laboratory」のキービジュアル
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文=出村光世

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