村上春樹氏の紀行文集『ラオスにいったい何があるというんですか?』にも登場する、世界遺産の町ルアンパバーンもそのひとつだ。ラオス北部に位置するこの町は、市民の6割が観光業に関わる観光都市だ。小さな町ながら長期滞在やリピーターが多く、不思議な魅力がある。
コロナ禍では、2019年には年間約520万人訪れていた観光客が皆無になり、辛く厳しい期間を過ごしていた。しかし、2021年12月にラオス初の高速鉄道「中国ラオス鉄道」が運行を開始したことで風向きが変わり始めた。
コロナ禍を経て観光客が戻り始めた今、新しいビジネスチャンスが生まれつつあると聞き、取材に訪れた。ルアンパバーンという町の魅力と、そこに商機を見出した日本人に迫る。
ルアンパバーンには何がある?
2020年のロックダウン以降、3年ぶりに本格的に開催されたラオスの新年を祝うお祭り(ピーマイ)。ラオスは、中国・タイ・ベトナム・カンボジア・ミャンマーと国境を接する東南アジア唯一の内陸国。東南アジア最長のメコン川が縦断する24万平方キロメートルの国土には約734万人が暮らすルアンパバーンは日本でいうところの京都のような古都だ。メコン川に面する近隣諸国の文化や交易の拠点として栄え、14世紀には現在のラオスの前身となるラーンサーン王国の王都となった。
以来仏教の影響を強く受け、多くの寺院が建立されてきたが、フランスの保護領時代(1893〜1953年)を経て、ラオスの伝統的な建築物とコロニアル様式の建築物が混在する独特な景観を持つ町となった。1995年に世界文化遺産として登録されたのも、その類を見ない町並みが高く評価された結果だった。
毎朝行われる托鉢には観光客だけではなく地元の人達も参加する
世界遺産地区に指定されているのは、メコン川とその支流ナムカン川に挟まれた縦1km、横300mほどの半島だ。とてもこぢんまりとした町なので、1日あればガイドブックに載っている主立った観光スポットは、すべて訪れることができる。
ところがなぜか不思議なことに、長期滞在やリピーターが多い。観光客の心を奪うものが、無数に存在するからだ。
フランス植民地時代の建物を改装したレストランやカフェ。名産の銀を使ったアクセサリーや、近隣の村で織られた色鮮やかな布などが並べられたお土産物屋。毎夜、暖かい裸電球の明かりと人々の笑顔があふれるナイトマーケット。町の至る所に「映える」スポットがある。
加えて海外の観光地には付きものの強引な客引きもいないため、昼夜を問わずまるで自宅の側を散歩するように、リラックスして過ごせる。
しかし課題もあった。「いつか行きたい世界の観光地」と言われることも多い町だが、隣国のカンボジアやタイに比べると規模感で見劣りするうえ、アクセスも悪い。世界の主要ハブ空港からの直行便は韓国の仁川空港からのみで、新規顧客の誘致に悩んでいた。
その突破口となったのが、2021年12月に運行を開始した同国初の高速鉄道「中国ラオス鉄道」だ。