「人事ではなく、人でみる」の本質
日置:「人事ではなく、人でみる」を、もう一段具体的に解説いただけますでしょうか。谷村:人事という観点では「この人事制度はうまくいったか」を考えがちです。一方で、人でみるとは、人事制度がうまくいった結果、人はどのように変わったのか。人の働き方やキャリアにどのようなインパクトを与えたのか、まで広げてみることを意味します。人へのアウトカム(成果)のために、制度をオペレーションする──それが「人起点」で行う人事です。
私たちは、個々人を2段階でみています。1段目は基本情報としての人材要件です。いわゆる「属性」です。人事の腕のみせどころは2段目。同じ属性のなかにある「違いの発見」です。同じ属性でも、一人ひとりの違いをどうみつけるか。理想は、個々人との対話を通して感じたことを、まず自分で言語化する。そして、後のタレントレビューなどのプロセスによって部署内で共通認識化していく。それが理想の「人でみる」プロセスです。
瀬尾:人事は「同一属性の人たちを、いかに多角的にみられるか」が問われる仕事です。コンピテンシー(優れた成果を生む個人の能力・行動の特性)という観点でどうしてもみたくなってしまいますが、「その人が置かれていたのは、どんなシチュエーションであったか」までを踏み込んで確認することこそが重要になるのではないでしょうか。「誰と仕事をしたか」「どんな仕事を任されたか」で、人のパフォーマンスは大きく変わります。その背景の確認が積み重なることが、人をより多面的にみることにつながる。
日置:CHROの役割についてはどのように考えていますか。
瀬尾:最も希少な資本とも言える「人的資本」を扱うのがCHRO。人的資本には、財務的資本とは異なる特性があります。まず、資本効率を図る尺度がありません。「自社がどのような状態になれば、人的資本が効率的に運用されたと言えるのか」というところから、CHROは議論を始めなければいけません。
さらに、人的資本への投資の結果は「組織文化・風土」といった目には見えないもの。そのため、人的資本は財務的資本と比べて、投資してからアウトプットが出るまで、非常に時間がかかります。この時間軸を考慮しながら、人的資本を効率よく成果につなげていくのが、CHROの役割です。非常にチャレンジングな仕事だと思いますね。
谷村:さらに、人的資本には「自律性」という特性もあります。一定のところまで成長すれば、自律的に成長していく可能性がある資本ですね。