IoT(Internet of Things)とは、あらゆるものがインターネットに接続され、従来は考えられなかった新たなサービスを実現する仕組みである。このIoTは、これまで浮かんでは消えていった流行言葉の一つなのであろうか。IoTがどのように世の中を変えるのかを、シナリオプランニングのアプローチで検討してみる。
IoTは、データ収集、データ分析、機器のコントロール、サービス提供の4つの要素で構成される。IoT普及のためには、この4つの要素のうち、データ収集を担うセンサーが普及することが大前提となる。しかし、センサーの普及にはコスト面の制約が立ちはだかっているのが現状である。当然、センサーの普及が進まない限り、そのデータ分析の手法の進化にも限界が生じる。その結果、IoTは巷間騒がれているような、社会全体を大きく変えるようなインパクトは生み出さない可能性もある。
コスト面におけるセンサー普及の制約を考えれば、センサーが普及する範囲は、世の中のモノすべてというよりは、工場内部のような極めて限定的な分野に限られると判断するのが現実的であろう。特に生産プロセスにしかけられたさまざまなセンサーから得られる情報は、工場における熟練労働者が把握できる情報量を飛躍的に向上させ、生産性を向上させる。すなわち、IoTに新規に参入を考える場合には、まさにモノづくりの現場における情報活用の支援が一つのカギとなってくるのだ。
※Machine to Machin、つまり機械と機械が人間の介在なしに機器同士がコミュニケーションをして動作するシステム。
ベースケースでは、センサーの普及が制約される以上、データ分析の分野における進化にも限界が生じると予想した。しかし、それでもデータ分析分野でイノベーションが急速に進展した場合、モノづくりの現場におけるIoTの意味合いは大きく変化する。分析手法の進化は、これまで職人技が必要とされていた複雑な工程も含む、ほとんどすべての工程の自動化が可能となる。
そうなると、ベースシナリオでは熟練労働者のサポーターであったIoTが一転、熟練労働者に牙をむく。このシナリオは日本のモノづくりメーカーにとっては悪夢のシナリオだ。ただし、海外に生産拠点を移している企業や、低コストのモノづくりに特化した企業にとっては、逆に福音となるであろう。
また、もう一つのシナリオの分岐点はセンサー配布のコストである。何らかの方法によりセンサーの大幅なコストダウンが可能となった場合、ベースシナリオで予想したセンサー普及の限界そのものが消滅する。その場合、さまざまなものにセンサーの搭載が可能となる世の中が登場し、それを受け、データ分析や機器コントロール関連の市場も一気に活性化するであろう。IoTに参入を考える事業者にとってこのシナリオはいわばバラ色の未来となる。さまざまなサービスが現実のものとなり、ビジネスチャンスが生まれることであろう。
ただし、このようなシナリオはあくまでセンサー普及のコストの劇的な低下、という因子が生じて初めて実現するシナリオである。したがって、IoT事業への参入を考える企業にとっては、この因子の動向が、今後の経営判断の重要なインプットとなっていく。
シナリオ01 日はまた昇る
・モノづくりの現場にIoTが普及した結果、さまざまな設備・機械のモニタリングが可能となり、モノづくり担当者が入手できる情報の質や量が高まる。
・その結果、熟練労働者の生産性が飛躍的に向上し、このようなデータを活用できる熟練労働者がどれだけ存在するかが、モノづくり企業の業績を左右するようになる。
・日本企業の強さを支えるモノづくりが再び競争力を持ち始め、その結果、日本のモノづくり企業が再び世界を席巻するようになる。
シナリオ02 落日の始まり
・モノづくりの現場にIoTが普及するとともに、収集したデータの扱い方や分析手法なども飛躍的に向上する。
・その結果、熟練労働者のノウハウは完全に解明され、モノづくりの現場における「職人技」の重要性が消滅してしまう。
・センサー技術を持たない日本企業の競争力は失われ、いくつかの限定的な分野以外は、新興国企業との価格攻勢と欧米企業の新技術攻勢の前に敗北することとなる。
シナリオ03 新世界の到来
・IoTのコストが劇的に低下し、工場内部だけではなく、市場に流通するあらゆるものにセンサーを搭載できるようになる。
・その結果、あらゆるものの流通や消費に関するデータが収集できるようになり、世の中のあらゆるものの動きが把握できるようになる。
・収集したデータを活用したあらゆるサービスが勃興し、さまざまなサービスを提供する新規事業者が誕生することとなる。