昨夏に右膝前十字靭帯断裂の重傷を負い、リハビリの期間に30歳になった快足アタッカーが、5月28日のアビスパ福岡戦でJ1リーグ戦の舞台に帰ってきた。波瀾万丈の宮市のサッカー人生は、前を向いて生きていく上で大切なものを教えてくれる。
復帰後の危うい瞬間
試合終了間際に、勝っているチームの監督がイエローカードをもらう。激怒し、手にしていたペットボトルを投げつけたのは、横浜F・マリノスのケヴィン・マスカット監督だった。ゴールラインへ向かって転がっていくボールを、FW宮市亮が必死に追いかける。相手ボールにしてなるものかと、アビスパ福岡のDF三國ケネディエブスが懸命に戻り、最後はこん身のスライディングタックルを見舞った。三國はボールをタッチラインの外へ弾き出した。ゆえに主審の笛は鳴らない。しかし、次の瞬間に宮市の両足をも激しく刈ってしまう。
吹き飛ばされ、ピッチ上に転がされた宮市の姿に、マスカット監督が我を忘れて激怒した。
宮市は326日ぶりにリーグ戦の舞台に立っていた。昨年7月の日本代表戦で右膝前十字靭帯を断裂。懸命なリハビリを経て復帰を果たした。宮市が手術を受けたのは今回が初めてではない。靭帯を損傷した右足首に始まり、ともに前十字靭帯を断裂した左右の膝にメスを入れ、その度に長期離脱を余儀なくされた。
復帰までの過程を間近で見守ってきたからこそ、マスカット監督はまたもや怪我をしてしまったのではないか!と案じたのだ。
「宮市の自信になったと思われるプレーがひとつあった。あれだけ激しいタックルを受けながらもすぐに立ち上がり、プレーを続行した点だ。彼がピッチに戻り、ボールを蹴る喜びをかみしめながらプレーしている姿が本当にうれしい」
怒りから一転、試合後の公式会見でマスカット監督は笑顔とともに宮市を評価した。自身を思いやってくれた指揮官へ、宮市も感謝の思いを捧げている。
「監督がそういったこと(イエローカードをもらうほどの抗議)をしてくれた、というのは選手として本当にうれしいこと。次はしっかりと期待に応えたい、という思いも膨らんできますよね」
見ている側に冷や汗をかかせたその接触シーンが起こったのは、残り時間1分ほど。マリノスのリードは2点。無理をする必要がない状況だった。宮市自身も試合後に「行かなくてもよかったシーンだったかもしれない」と語っている。それでも宮市は一気に加速していった。何に突き動かされていたのか。