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2023.06.12 17:00

アニメとIPを柱に躍進。東宝が世界と同じコートに立つ

Forbes JAPAN編集部
帰国後は洋画配給の老舗、東宝東和に転職して洋画の買い付けを担当する。評判の高い作品は競争になって手が届かず、仕方なくほかの作品を買うしかなかった。

「たまにヒットして目利きと褒められましたが、やはり運の要素が大きく、浮き沈みが激しい。いかにしてここから抜け出すかということばかり考えていました」

14年、東宝に国際担当役員として入り、こんどは日本映画を海外に売るミッションに取り組む。巨大な市場に対して松岡が打ち出したのは「IP」と「アニメ」だった。

東宝はゴジラという強力なIPをもつ。世界中でヒットしていたハリウッド版『ゴジラ』の1作目はレジェンダリー・ピクチャーズが権利を持っていたが、2作目以降、そのマーチャンダイズの権利を買い戻して、リスクを積極的に取りに行った。

アニメはかつて違法ダウンロードが幅を利かせ、海外では一部のマニアのものに過ぎなかった。風向きが変わったのは、16年集英社「週刊少年ジャンプ」連載の『僕のヒーローアカデミア』(TVアニメ)。制作を発表すると、ユーザー数が急増していた米配信事業者数社から「いくらでも出す」とオファーが届いた。買い付け担当時は価格のつり上げに泣かされたが、立場が逆転。「だまされているんじゃないか」と耳を疑った。近年のアニメ映画の成功は、この流れの延長線上にある。

海外事業を軌道に乗せた松岡は、22年5月に社長に就任した。今後の成長の鍵を握るのは海外だ。「アニメで海外を開拓できれば、その知見を実写映画や演劇にも活用できます」。

13歳のときテニスコートで感じた海外との差は、果たして縮まったのか。そう問うと、松岡はスマートな笑みをたたえた。

「リップサービスかもしれませんが、北米の映画館組合のトップが『うちの子は、映画館ではアニメとBTSしか観ない』と言っていました。背中が見えたとまでは言えません。しかし、同じコートに立てるところまではきた。勝負はこれからです」


まつおか・ひろやす◎1966年生まれ。慶應義塾大学卒業後、米ピッツバーグ大学経営大学院修了。米大手エージェンシーに入社後、帰国し94年東宝東和入社。2008年に同社社長就任。14年東宝取締役、18年に常務取締役を経て22年5月より現職。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

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