仕事は何でも引き受けた
ジャンルの壁を超え、まさにマルチに活動してきたリリーさん。どうしてこんなことが可能だったのでしょうか。「オレは全部、その世界のニセモノだと思ってますから。アマチュアです。でもね、プロだと言われているのに、つまらない文章とか書く人もたくさんいるわけですよ。ヘタクソなカメラマンとかね。だったら、アマチュアのオレでもできるじゃないと思ったんです」
プロになる、と聞くと身構えてしまう人も少なくないかもしれません。しかし、「大げさに考えないほうがいい」とリリーさんは言うのです。
「街のラーメン店だって、たくさんあるけど、うまい店はほんのひと握り。プロになるのは簡単なんですよ。とりあえず開業すりゃいい。ただ、おいしいラーメン店になるのは簡単ではない。ここが大事です」
リリーさんは最初から「何でもやれますよ」と言っていたそうです。それで、やってきた仕事をすべて引き受けた。「この仕事は自分のイメージと合わないから」などと言わなかったそうです。
「仕事は断りません。だって、わざわざオレのことを探してきてくれた人の依頼をことわるなんて、失礼じゃないですか。ただ、時にはお互い失敗はある(笑)。物理的な時間を超えて仕事を受けてしまうので、パンクすることもあります」
金がなくても体力さえあれば
多くの方が、自分に合う仕事を見つけたいと、一度は思ったことがあるのではないでしょうか。リリーさんは、こんなヒントを教えてくれました。「自分の体に聞くのがいちばんだと思う。体が、そこの空気に合っているかどうかです。バイトでもそうでした。デザイン系の会社のバイトより、肉体労働系のバイトのほうが、オレは圧倒的に楽しかった。仕事相手も、親方も、友達も自分には合ってました」
合わないなら、すぐに辞める。体がそう言っているなら、素直に辞めたほうがいいと。それよりも、若いのであれば、その年齢を大事にしたほうがいいとリリーさん。
「20代なんて人に怒られても借金しても、体力があるから何とかなるんです。金がなくても体力さえあれば、いろんな経験はできる。でも歳を重ねて金だけあっても、体力がなくなったら経験できることは少ない。20代というのは、本当に貴重な時期なんです」
そして、若いのにそのポテンシャルを活かせていない人がいると語っていました。例えば、好きなものに囲まれ、同じ趣味の人だけと話すようなことです。
「若いときは、恥をかいていいんです。非難され、批判され、否定されてもいいんです」
こうも言っていました。若いときに趣味が楽しめる小金を持ってしまうほうが、むしろ不幸かもしれないと。
「金なんてなくたって、楽しいことはできる。ひどい生活だったし、この年であの頃と同じ生活は無理だけど、いい経験でした」
実際、若い頃に書いた本は、このときに蓄えたものが大いに役立ったそうです。
「仕事を始めたら書きたいことも本当にたくさんあって。それこそ2万字分書きたいけど、文字数の制限があって、1200字に収めなくてはならなかった。凝縮した文章が書けましたね。あの蓄えで10年くらいは食えたと思います」