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スナップチャットCEOエヴァン・スピーゲル(左)と、CTOボビー・マーフィー(右)。
スピーゲルは24歳、マーフィーは26歳。



米国の10代の若者たちに絶大な人気を誇るスマホ向けアプリ「スナップチャット」。送った相手のスマホから10秒以内に画像が「消える」というアイデアに舌を巻いたザッカーバーグは30億ドルで買収を持ちかけた。だが、スナップチャットの創業者はこれを拒否。その理由はなんなのか。知られざる“ベンチャードラマ”を紹介しよう。

「知り合いになりたいからメロンパークに来てよ」
2012 年末、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグは、スナップチャットの創業者エヴァン・スピーゲルに、こんなメールを出した。

スナップチャットは、「送った写真は相手のもとから10 秒以内に消える」という画期的なアプリ。だが、いまだ収益モデルが確立していないという難点も抱えている。そんなアプリの共同創業者に、“ 史上最もリッチな20 代”ザッカーバーグ自らアクセスしてきたのだ。

これに対し、史上最も生意気な(もしくは、ザッカーバーグ以来最も生意気な?)IT 界の神童は、こうメールで返した。
「ぜひ会いたいね。そっちが来るならだけど」
そこでザッカーバーグは、「フェイスブック本社の設計について話し合うべく建築家フランク・ゲーリーと会う」という名目で、スピーゲルのいるロサンゼルスに飛んだ。人目につかずに面会できるよう、アパートも用意した。
スピーゲルが、スナップチャットの共同創業者CTO(最高技術責任者)のボビー・マーフィーと連れ立って現れたとき、ザッカーバーグはある計画を胸に秘めていた。それは、スピーゲルとマーフィーからスナップチャットの将来像を聞き出すこと、そしてフェイスブックの新機能「Poke(ポーク)」について説明することだ。

ポークは、送ったメッセージや写真が数秒で消えるモバイル用アプリで、数日中に世に出ることになっていた。
「基本的には、『おまえらを潰してやる』って話だったよ」と、スピーゲルは振り返る。そして、スピーゲルとマーフィーはオフィスに戻るとすぐに、当時6 人いた社員に1 冊ずつを配るべく、孫子の兵法書を注文したという。
スナップチャットは、フェイスブックの存在を脅かす唯一無二の存在だ。なぜなら、「時間がたてば写真が消える」という機能こそが、いまの10 代の若者たちが求めていたものだったから。一度SNSに投稿した画像は、ウェブ上から消えることはない。自分たちよりも上の世代がそんな悩みを持っていたことを知っている若者たちの心理にうまくマッチしたのだ。
フォーブスの推計では、現在、スナップチャットのユーザーは約5,000 万人に上る。年齢の平均値は18歳だ。一方のフェイスブックは、ティーンの利用が減ってきており、ユーザーの平均年齢は40 歳に近い。
ザッカーバーグもそんな現状をよく理解したうえで、勝負をしかけたのかもしれない。
ポークをリリースした12 年12月21日、ザッカーバーグはスピーゲルに「ポークを楽しんでいるかい?」とメールを送ってきたという。

すでにフェイスブックから退会していたスピーゲルは、あわててマーフィーに電話し、どんなつくりになっているかを聞いた。マーフィーによると、それはスナップチャットのほぼ完全なコピーだった。
ところが数日後、おかしなことが起こった。ポークはリリースの翌日こそ、iPhoneのアップルストアでナンバー1に躍り出たが、そのわずか3日後の12月25日に、スナップチャットが抜き返した。ポークはというと、トップ30からも消えたのだ。

そのためもあるのだろう。ザッカーバーグは昨年秋、再びスピーゲルに連絡を取り、事実上の降伏宣言をした。いまだ収益を生み出せていない、スタート2 年目のスナップチャットを「30 億ドル(約3,000 億円)で買収する」と提案したのだ。

なんとも型破りの条件だが、さらに型破りだったのは、スピーゲルがこの提案を蹴ったということ。本誌の推定では、その時点でスピーゲルとマーフィーは各々スナップチャットの株の約25%を所有していた。すなわち2 人は、それぞれ7 億5,000 万ドルの稼ぎに背を向けたのだ。
「スナップチャットの戦略的な価値はわかりますよ」と、あるベンチャー投資家は言う。
「だけど、30 億ドルですよ! 私の知る世界ではありえません」
だが、孫子の兵法をよく知る者にとっては、スピーゲルがなぜそのような決断を下したか、理解できるはずだ。
同書のなかには、「敵が弱みを見せたら、そのときその場所を攻めろ」というくだりがある。スピーゲルとマーフィーは、これを好機と見て、自社を売却するのではなく、SNS 界の序列の転覆を狙ったのだ。12月には企業価値を20 億ドル弱と見積もる出資者から、5,000万ドルの軍資金も調達した。
「短期的な利益に満足して、それを売ってしまったら、つまらないと思うんだよね」
そうスピーゲルは言う。

繰り返しになるが、スピーゲルが「短期的な利益」と呼ぶのは、7 億5,000 万ドルだ。短期的な利益に背を向け、「長期的な利益」に狙いを定めたこの23 歳の男は、次代の若き億万長者になるのだろうか。それとも、若気の思い上がり、で終わるのだろうか。

身長185cmのほっそりとした体。ボタンダウンのシャツに、デザイナージーンズ。足下には、白いシンプルなスニーカー。
ロサンゼルスのベニスビーチに構えたスナップチャットの新社屋でインタビューをしているあいだ、彼はクマの形をしたグミや、金魚の形をしたクラッカーに絶え間なく手を伸ばしながら、唐突に大笑いしたかと思えば、ときに冷ややかに我々を睨みつけたりした。

政治や音楽、IT 業界で働く人々の話になると、スピーゲルはしっかりと意見を口にする。一方で、理想とする経営チームや、スナップチャットの長期的なビジョンといった話題になると、途端に口が重くなった。だが、忍耐強く話しているうちに(ある日のインタビューは2時間半にも及んだ)、スピーゲルのことが少しずつわかってきた。そして面白いことに、その生い立ちは、ザッカーバーグととてもよく似ていた。
 
ザッカーバーグ同様、スピーゲルも比較的恵まれた家に生まれた。マリブの東のパシフィック・パリセーズというなかなか洒落た町で、弁護士夫妻の第一子として生まれている。
10代前半はITオタク。これもザッカーバーグと同じだ。6 年生で初めてパソコンを自作し、学校のコンピューター教室でフォトショップをいじった。週末は、地元の高校のアート・ラボで過ごした。

高校に上がると、ザッカーバーグに負けず劣らずのやり手ぶりを発揮し始める。クラブやバーで栄養ドリンク「レッドブル」を宣伝する仕事をし、離婚した両親を天秤にかけるようにして望みをかなえていった。
最初に父との同居を選んだのは、好きなように部屋を飾ったり、自由に友達を呼んだりしてもいい、と言われたからだ。大学時代を除き、彼は海岸近くの父親の家にずっと住んでいる。
「いろいろなものが急速に変わったけれど、住まいだけは変わっていない。そのことにほっとするんだ」と、彼はまるで言い訳をするように言う。

スピーゲルはスタンフォード大のプロダクト・デザイン科に入学し、2 年生のときに数学とコンピューター科学を専攻する4 年生のボビー・マーフィーに出会った。
「僕らはイケてなかった」と、マーフィーはそのころのことを振り返る。
「だから、何かクールなものをつくりたかったんだ」
マーフィーはバークレー出身で、母親はフィリピンからの移民。両親はともに州政府の公務員だった。
最初に“ 仕事”を依頼したのは、マーフィー。グーグルのサークル機能のようなSNSをつくろうと、スピーゲルに声をかけた。だが、この計画は実を結ぶことはなかった。

それでもスピーゲルは徐々に頭角を現し始める。インテュイットの創業者であるスコット・クックは、「起業とベンチャー投資」という大学院レベルの講義でゲスト講師を務めた際、スピーゲルの受け答えに感心したという。
「講義の後で担当教授にその件を話したんです」と、クック。
「すると教授はこう言いました。『君は驚くだろうが、彼はMBAの学生じゃない。このクラスを聴講している学部生なんだ』と」
インテュイットの仕事をさせようと、クックはただちにスピーゲルを雇った。
だが、スピーゲルは下働きで満足していられるような人間ではなかった。10 年夏、彼とマーフィーは「フューチャー・フレッシュマン(未来の新入生)」と銘打った大学入学手続きの支援ソフトを開発する。
「最終的には、とてもよくできたウェブサイトになった」と、マーフィーは言う。
だが、ここには問題があった。使ってくれる人が5人くらいしかいなかったのだ。
そのころ、偶然か必然か、同じくスタンフォード大の学生だったレジー・ブラウンがスピーゲルの部屋を訪れる。そこで彼はスピーゲルに向かって、「ある写真を人に送ったことを後悔している」と話した。

そこでブラウンが放った「消えてしまう写真を送れるアプリがあればいいのに」という趣旨の言葉こそ、スナップチャットが生まれるきかっけとなった。
ブラウン曰く、この言葉でスピーゲルは見るからに活気づき、「100 万ドルのアイデアだ」と繰り返したという(スピーゲルは興奮したことは認めたが、「100 万ドルのアイデアだ」と言ったかどうかは答えなかった)。



その夜、さっそく彼らは開発者を探し始めた。そして最終的に、マーフィーに白羽の矢が立った。
当初の役割分担は明確だった。マーフィーがCTO、ブラウンがCMO(最高マーケティング責任者)、スピーゲルがCEOだ。スピーゲルは受講していたプロダクト・デザインのクラスで、消える写真のアイデアを磨いた。
彼らが最初に考案したのは、タイマーをセットしたうえで写真を投稿してもらうという、いまいちパッとしないウェブサイトだった。
初めて展望が開けたのは、このアイデアをモバイルに移行しようと考えたときだ。スピーゲルは言う。
「ある段階で気づいたんだ。『ケータイにはカメラが付いている。そっちのほうが簡単じゃん』ってね」

くだんのデザイン・クラスは、締めくくりにベンチャー投資家向けのプレゼンを用意していた。ブラウンは「ピカブー」というアプリ名を考案し、マーフィーは試作品をつくるためにひたすら働いた。
「反応は、基本的に『一応、見せてもらったよ。ご苦労さん』というものだった」と、スピーゲルは振り返る。大半の投資家は「消える写真なんて誰が送りたがるものか」と思っていたようだ。
ピカブーの最初のバージョンがiOSのApp Storeにデビューしたのは、11 年7月13日のことだった。
結果は低調だった。
「残念ながら、インスタグラムの伝説の再現とはならなかった」と、マーフィーは嘆く(インスタグラムは初日に2 万5,000ダウンロードを記録していた)。

写真を受け取った側がスクリーンショットを撮れば、消えるはずの写真も永遠に残すことができる―。ピカブーにはそんな、致命傷ともいえる欠陥があったのだ。夏が終わるころになっても、ユーザーはわずか127 人に留まっていた。
ブラウンは、ピカブーをセクシャルなツールとして位置づけることを考え始める。彼が作成した報道向け資料の草稿のなかには、「ピカブーでボーイフレンドとやり取りした写真は、ピーク(チラ見)できてもキープ(保存)はできない!」なんてウリ文句もあった……。

このころから、3 人の関係は悪化し、現在は訴訟問題にまで発展している。決裂が決定的になったのは、最終的な株式の持ち分を話し合っていたときのことだ。ブラウンはそこで30%内外の持ち分を要求し、自身の貢献内容として、大もとになったアイデアやピカブーという名称、さらにいまではすっかり有名になった幽霊のロゴを挙げている。それに対しスピーゲルとマーフィーは、ブラウンはそれだけの持ち分を得るには値しない、と反発した。ブラウンがスピーゲルとマーフィーの「才能を導いた」と主張すると、スピーゲルは激怒したという。
スピーゲルとマーフィーはピカブーの管理用パスワードを変更し、ブラウンとの連絡を断った。はじき出されたブラウンは、フェイスブックにおけるウィンクルボス兄弟の立場に追いやられた。
残った2 人は、ピカブーというアプリ名をスナップチャットに変えた。同名のフォトブックの会社から停止命令を受けたからだ。

「あれは天啓みたいなものだった」とスピーゲルは振り返る。
その年の秋になり、スナップチャットのユーザー数が1,000 人に近づくと、奇妙なパターンが現れ始めた。アプリの使用が、学校の授業時間中の9 時から15 時にピークとなったのだ。

スピーゲルの母親は、高校生の姪にスナップチャットのことを話していた。その高校はフェイスブックの使用を禁じる一方、教材のiPadにスナップチャットを導入した。すると生徒たちは、それを使って授業中に「メモ」を回すようになったのだ。手書きのメモと違うのは、証拠が残らないことだった。

新型iPhoneの発売もあって、ユーザー数は12月に2,241人へと急増。1月には2 万人、4月には10 万人に達した。だが利用者が増えれば、サーバーの使用料も高額になる。スピーゲルは祖父にその一部を出してもらい、マーフィーは給料の半分をつぎ込んだ。経費が月額5,000ドルに近づくと、2 人は自力ではやっていけなくなった。

救援に駆けつけたのはライトスピード・ベンチャー・パートナーズのジェレミー・リューだった。シリコンバレーの高校に通う同僚の娘から、スナップチャットがインスタグラムやアングリーバード並みの人気になっていると聞いたのだ。
12 年4月、ライトスピードはスナップチャットの企業価値を425 万ドルと見積もり、48 万5,000ドルの出資を決めた。この年、スナップチャットはウイルスのように増殖していく。

スナップチャットは、3つの点でフェイスブックへのアンチテーゼとなっている。
第1に、スナップチャットのほうがより排他的だ。フェイスブックは縁遠くなった学友同士を結びつけることを可能にするツールだが、スナップチャットは電話をかけ合う間柄の人々にまで絞り込む。

第2に、スナップチャットは若々しくて「クール」と見なされている。モバイルにルーツを持つスナップチャットのほうが、アプリ世代の信頼を得やすいのだ。

第3に、いまはエドワード・スノーデンの時代であり、リベンジ・ポルノの時代だ。自滅的な行為は避けるにこしたことはない。
スピーゲルとマーフィーは、スナップチャットをより楽しく手軽なものへと変化させていった。写真を見ようとするユーザーは、指をスマホの画面に当てていなければならない。これは、消える写真を別のカメラで撮られるのを防ぐための工夫だ。

驚異的な成長が語られるものの、スナップチャットにはひとつの重要な要素が抜けている。収益の問題だ。スピーゲルは収益について基本方針を語るとき、まるで用意された原稿を読むような言い方をした。
「まずは、アプリ内課金。続いて広告。それが、僕らの考えるプランだ」
広告を入れるのは、一筋縄ではいかないだろう。スナップチャットはプライバシーが保護されることや、送った写真が消えることをウリにしてユーザー数を伸ばしてきた。これでは、ターゲット広告を打ちようがない。スナップチャット側はユーザーのメールアドレスと年齢、電話番号くらいしか知らないし、そもそも広告も消えてしまう。

だが一方で、ほかのデジタル広告媒体にはないセールスポイントがある。見られることが、保証されているのだ。写真や動画を見るためには、ユーザーはそこに指を触れなければならない。広告を入れても同じ。スナップチャットはその広告が閲覧されたかどうかを、自信を持って広告主に言える。

収益の問題に関しては、「この手のアプリのアクティブユーザーが1日5,000 万人に達すると、決まって『収益を生んでいないじゃないか』と言われる」と、擁護する声もある。確かに、ツイッターやフェイスブックについても同じことが言われた。

スナップチャットは勢いを失っていくのだろうか。あるいは、評価がピークに達したところで売り抜けるのだろうか。それとも、次なる巨額IPO(新規株式公開)にこぎ着けるSNSとなるのだろうか。

きっと、答えは2 年以内に出る。もしかすると、スピーゲルが26 歳にも達しないうちに。

J.J.コラオ = 文 マイケル・グレコ = 写真 町田敦夫 = 翻訳

 

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