大手外資系生命保険会社で最年少支社長を務め、その後「KonMari Media Japan(現:KMJ)」の社長も務めた砂子貴紀さん、今はご夫婦で予約制ギャラリー「Casaさかのうえ」を運営しながら、企業向けのアドバイザーをされているという。リラックスした雰囲気の撮影のなかで、ふと訊きたくなって冒頭の質問をした。
「いや、人は変わらないね」
彼からは、間髪入れず、そんな言葉が返ってきた。内心、期待した答えとは違った。
人はいろいろな顔を持っている
私がこれまで撮影してきた敏腕ビジネスマンや経営者は「優秀な人間は最初から優秀だ。だから採用が大事なのだ、誰と働くかが重要なのだ」と言う人が多かった。でも、どこかその見方に釈然としない自分もいた。最初から良いとか悪いとか、ちょっとエリート主義的で冷たいなと。そんな基準で採用されたら、最初から仕事ができる人にとっては天国かもしれないけど、できない人には地獄だなとも。
一方で人って変わったり、育っていったりするものなのではないかなとも思っていた。
すると「人は変わらないけど、仕事において成長はすると思うよ。最初は仕事ができない人でも、目覚ましい実績をあげた人はいるし」と砂子さんが続けた。
おお、これは自分の求めていたことに近づいている。その真意をさらに知りたいと思っていると、彼が言葉を継いだ。
「家族に向ける顔、恋人に向ける顔、友人への顔、仕事での顔と、人はいろいろな顔を持っている。人の全体としての器は、その人なりの歴史があるから、そう簡単には変わらない。けれど、実は自分の全てなんて到底仕事では見せないよね。自分がまだ仕事では見せていない顔を、うまく引き出すことで仕事がうまくいくことがある」
なるほど、とても肚に落ちる答えだった。
自分自身のことを考えてみても、仕事だと真面目に取り組みすぎてとか、格好つけようとしすぎてとか、自然体でないときがある。そんなとき、同行している編集者などが、私の失敗談など柔らかい話題をふってくれると、場の空気が和んで撮影がうまくいくことがある。
そして、同時にこうも反省した。
立場を変えて、きちんと自分の弟子のそういう見えない部分にまで考えを及ばせていたかなとも。見えているところだけで判断しようとしていたのではないかと。