キャリア

2023.06.05 18:00

相手の仕事で見せていない顔を引き出してやるのがリーダーの心得

砂子貴紀 氏

「自分」を全て片づけて

では、どうしたらその人の仕事では見せていない面を引き出して、もっと活き活きと働けるようにできるのだろう。また成果を出してもらえるのだろう。疑問に思い、さらに砂子さんへの質問を続けた。
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「いや、僕も最初は失敗して。初めてマネージャーになったとき、チームのメンバーの成果が全然上がらなくて」

そんな意外な答えが砂子さんからは返ってきた。答えが見えず悩みに悩んで、当時の上司であった支社長に相談をしたところ、「砂子は自分の強さを表現しすぎているかもしれない。自分のデスク、改めて見てみな?」と窘められたという。

「実際に立ち止まって僕の机の上を見てみたら、それまでに会社で表彰されたトロフィーとか、家族の写真とか、デスクが『自分』で埋め尽くされていてさ。メンバーのこと、本当に考えていたのかなって。口先だけじゃないかと。その日のうちに、机の上のもの全て片づけて。そしたら、誰の机かわからないくらいの机になっちゃった(笑)」
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優秀なプレイヤーだった彼は、その延長上でメンバーと向き合っていたが、180度方針を転換。自分を透明にして、部下のことを第一に考えるようになったら、チームの成果も上がり始めた。あとは、彼の経歴の通り、メンバーが彼をマネージャーとして押し上げ、最年少で支社長に抜擢された。

そんな話を砂子さんから聞いたあと、大好きなプロ野球のペナントレースのことを考えていると、好調なチームと不調なチームの違いが明らかになってきた。古い昭和型で上意下達のマネジメントスタイルだったり、どうやらオレオレ主義な監督だったり、そういうチームは言わずもがな成果が上がっていない。

一方で、チームメンバーを最後まで信頼し続け、支え続けたWBC日本代表の栗山英樹前監督は、世界を制覇した。ペナントレースでも、チームメンバーを思いやる監督がどうやら成果を上げている。

人を変えよう、と思うこと自体がおこがましいのかもしれない。

それよりも自分が相手のことを思いながら接して、時には好きになってもらう。そうすると、自然と相手も取り組んでいることに身が入っていく。相手の仕事で見せていない顔を引き出してやることが、結局、自分の成果にもつながるのだ。



砂子貴紀 (マナゴタカノリ) ◎ 三重県生まれ。早稲田大学卒業後、3M Japan、プルデンシャル生命保険 歴代最年少支社長を経て、経営の道に。日本発の片づけメソッドを世界に展開する近藤麻里恵とその事業のマネジメントを行うKonMari Media Japanの社長を3年半務める。現在ではフリーのアドバイザーとなり、独立した立場で、豊富な経験と柔軟な思考を活かし、企業向けのアドバイスを行いながら、夫婦では予約制ギャラリー「Casaさかのうえ」を運営している。プライベートでは3児の父であり、茶道と珈琲が趣味。

文・写真=小田 駿一

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