深い川は静かに流れる
藤吉:私のことを台湾の新聞のコラムに書いてくださり、ありがとうございました。中で、“Still waters run deep(深い川は静かに流れる).”ということわざを引用されています。『「静かな人」の戦略書』でも言及されているこの言葉についてもう少しその意味を教えていただけますか?チャン:はい。とりわけ現代社会のスピードはとても速く、人々は絶え間ない変化を追い求めていますよね。他の人よりも速く動くことを求めるあまり、沈思したり、時間を投資して取り組んだりすることの価値や重要性を忘れがちです。
例えば、雑誌は毎月の売り上げが良いことが望まれます。
オンラインメディアでは、毎日、各記事がクリックされた数を見て、「その情報がどれだけ重要と思われたか」を判断しています。しかし、多くの注目を集めない情報が重要でないとは限りません。逆に、刹那な反応は集めやすくても、その実、取るに足らない情報もあります。
でももし、私たちがインスタント・ニュースやクリックだけで生きているとしたら、私たちの人生経験は、深い思考も内省もなく、自分自身や世界、社会について真摯に考えることもなく、とてもとても浅薄なものになってしまうでしょう。
だからこそ、私たちは、マサハルさんもおっしゃる「大事なストーリー」が広がるように、より多くの努力と資源と時間を費やす必要があるのです。「そのストーリーに出会う前」よりも人々は深く、大きな視座で考え、行動にも変容を起こそうとするようになるからです。人間社会が成長し、向上していくためには、このようなストーリーや活動が絶対に必要です。
メディアを含むあらゆる業界で、もっとスローペースな、深いインパクトが必要だと思うのです。それが「深い川は静かに流れる」の意味するところです。
ジル・チャン◎ミネソタ大学大学院修士課程修了、ハーバード大学、清華大学でリーダーシップ・プログラム修了。ハーバード・シード・フォー・ソーシャル・イノベーション、フェロー。アメリカの非営利団体でフィランソロピー・アドバイザーを務める。『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』は台湾でベストセラー1位となり、20週にわたりトップ10にランクイン、米ベレットコーラー社が28年の歴史で初めて翻訳刊行する作品となり、第23回Foreword INDIES「ブック・オブ・ザ・イヤー」特別賞にも選出された。現在は母国の台湾・台北市に拠点を置き、内向型のキャリア支援やリーダーシップ開発のため国際的に活躍している。過去2年間で行ったスピーチは200回以上。