脚本を担当したのは、テレビドラマや映画で活躍する坂元裕二。もちろん彼にとっては初めての栄誉となるが、ひと足先に日本に帰国していたため、現地時間5月27日に行われた授賞式では、是枝裕和監督が受賞のトロフィーを受け取った。
是枝監督は、受賞後すぐに日本にいる坂元に報告したところ「夢かと思った」と返事が。そのあと続けて「たった1人の孤独な人のために書きました。それが評価されて感無量です」と喜びの声が寄せられたという。
映画「怪物」を手掛けた是枝裕和監督(中央) (c)2023「怪物」製作委員会
是枝裕和×坂元裕二のタッグが成立
坂元裕二は1967年生まれで大阪府出身。1987年、19歳のときに「第1回フジテレビヤングシナリオ大賞」を受賞して、脚本家デビュー。1991年にはテレビドラマ「東京ラブストーリー」の脚本を担当し、一躍、脚光を浴びる。その後、「Mother」「カルテット」「大豆田とわ子と三人の元夫」などテレビドラマで話題作を連発。最近では脚本を担当した映画「花束みたいな恋をした」(土井裕泰監督)が大ヒットを記録する。
「怪物」の脚本は、元々、是枝監督に企画が持ち込まれる前から始まっていた。2018年に坂元がインスタグラムに「これにてちょっと連ドラはお休みします」と投稿。それを目にしたプロデューサーが、映画の脚本に興味はないかと打診したところ、坂元から前向きな返事を得たという。
何度も打ち合わせを重ねるなかで、ある日、坂元から長いプロットが渡される。その段階で「怪物」の原型は、ほぼできあがっていた。そして2019年、かねてから「一緒に仕事をするなら坂元裕一」と公言していた是枝監督に白羽の矢が立つ。
(左から)監督の是枝裕和、脚本の坂元裕二(c)2023「怪物」製作委員会
是枝監督は、デビュー作の「幻の光」(1995年)以外は、自ら執筆した脚本で作品を撮ってきた。その是枝監督が、かねてからリスペクトしていたとはいえ、他の人の脚本の映画化で監督を引き受けたのはなぜなのか。その理由について、次のように語っている。
「坂元さんが書く人間には、僕の書けない人間が何人もいるのです。だから話をいただいとき、すごく嬉しかった」
こうして2人のタッグが実現する。是枝監督は次のようにもコメントしている。
「こんなことを言うと坂元裕二ファンには怒られるかもしれませんが、加害者遺族、赤ちゃんポスト、子どもたちの冒険旅行、疑似家族と、同じモチーフに関心を持たれている方だなと親近感を抱いていました。もちろん作品になるタイミングは前後していますし、扱い方はまったく違うのですが、それでも彼と自分は同じ時代を生き同じ空気を吸って吐いているのだと感じていました。そして何より、その題材をとてつもなく面白いものに着地させる手腕には、羨望と畏敬の念の両方を抱いていました」