出国禁止措置には、中国人であれ外国人であれ、人を威嚇し、中国共産党の権力を強化する効果があるのかもしれない。しかし出国禁止措置は「景況感を高めて投資と成長を促す」と公言する中国政府にとって、その足を引っ張る効果を持つものだ。
中国政府はかねてより、反体制派の影響力を抑え、あらゆる人を怖じ気づかせる手段として、一部の人に対して出国禁止措置を発動してきた。また、政府の方針を批判したり、他のかたちで個人的な権力や影響力を示したりした著名な実業家の出国を時折禁じてきた。しかし、習近平が権力を掌握して以来、当局は、出国禁止措置をさらに幅広く適用できるよう法律を整備している。
いまでは、出国禁止措置を定めた法律が15に上っている。そのうち5件は、ここ数年で可決されたばかりだ。2023年4月26日には、スパイ行為の摘発を強化する「反スパイ法」が改正され、出国禁止措置を発動できる対象がさらに拡大した。2018年に制定された中華人民共和国監察法(公務員等の汚職取り締まりのための独立機関設置を定めた法律)と合わせれば、中国政府はいまや、中国人だろうが外国人だろうが、民事犯罪や刑事犯罪の取り調べ中だとして、たとえ容疑者でない場合でも出国を拒否できるようになった。この出国禁止措置は家族にも適用される。
出国が禁止された人の数は急増している。最高裁判所に相当する最高人民法院の記録では、2022年に発動された出国禁止措置は4万件近くに上り、2016年の8倍に増えた。増加分のほとんどは、民事訴訟に関連するケースだ。人権活動グループが、ウイグル族など民族別に基づいて出された出国禁止措置の数を集計したところ、推定で「数万人」の中国人と、合計128人の外国人が影響を受けている。
いうまでもないことだが、権威主義体制を敷く中国政府は、自らの権力を行使する際に人権を気にかけることは滅多にない。しかし中国政府は、出国禁止という方針によって中国経済が被ると見られる影響を考えた方がいいかもしれない。中国は、国内外の民間企業からの投資を誘致したいと公言しているが、出国禁止措置を広く適用すれば、その望みが妨げられるのは確実だ。出国禁止措置の拡大で最も著しい影響を受けるのは、技術発展と高性能で高価値な製品という、中国政府が切望する分野かもしれない。
中国国内に目を向けると、景況感は低迷したままだ。政府が懸念を示しているように、未来に向けた民間企業の意気込みは低下している。アナリストはその原因として、ゼロコロナ政策による都市封鎖や、不動産開発セクターの失敗に起因する過剰債務を挙げている。さらに習政権が、企業人には中国共産党に対する責務があり、そうした責務は利益目標よりも優先されるという姿勢であることも影響しているだろう。