とはいえ、そうしたソフトな姿勢は、出国禁止措置の厳格化とは両立しない。出国禁止措置を、民事訴訟に適用するのであればなおさらだ。企業の競争や事業拡大においては、法的問題の発生は避けられない。そこに出国禁止を結びつければ、事業拡大計画の妨げになることは明らかだろう。たとえ、関係者が海外渡航を希望していない場合でもだ。
いずれにせよ、投資を行なう外国企業は、出国禁止措置にいっそう神経を尖らせるだろう。前首相である李克強はこれまで、国外からの投資を促進させようと、国外企業のオーナーは「内国民待遇」と呼ばれる扱い(国外企業も国内企業と平等の待遇を与えられること)を期待できると述べ、より自由に行動できる可能性を示唆していた。しかし、民事訴訟に巻き込まれる確率は、外国資本企業も国内企業も同じだ。よって、出国禁止措置が発動されうるのであれば、外国企業は、中国以外の投資先に目を向けようという気になるだろう。
自分の部下が、アイルランド人のビジネスマン、リチャード・オハロランと同様の運命をたどることを望む上司はいない。オハロランは2019年、自身の入社前に起きた商業的な問題を解決するために中国へ出張し、当局から出国禁止を言い渡された。そして勤務先企業が、中国の投資家に金を支払うと合意してようやく、3年後の2022年に帰国がかなった。
そんなリスクを冒してまで中国に投資する理由などあるだろうか。有利な投資先なら、中国以外のアジアや自国内にもあるし、それらは、実質的な人質事件に発展するおそれがないのだ。
習近平は、国家主席に就いて以降ずっと、中国共産党の支配力を徹底行使するという立場を明確にしてきた。また、中国は経済的発展の段階を終え、共産主義的管理を再行使するときが来たと述べている。習政権は出国禁止措置を、そうした計画の一環として見ているに違いない。しかし出国禁止措置は、共産主義の他の多くの側面と同様に、中国の成長、経済、繁栄にとってマイナスだ。習政権はその点を案じているかもしれないが、方針を転換するほど気にしているわけではないようだ。
(forbes.com 原文)