記録は物理的に存在するが、記憶は人々の頭のなかにある。よって記憶はときには如何ようにでも変質していく。そういう意味で、映画「aftersun/アフターサン」は、記録と記憶に関する作品と言ってもよい。
海辺のリゾートにやってきた父親と娘。両親が離婚して離ればなれに暮らしているため、2人にとっては束の間の交流の時間だ。父親が持参したビデオカメラで、2人は互いにその「楽しい」時間を映像に収める。
「aftersun/アフターサン」は、観る側にとってはなかなか手強い作品だ。漫然と観ていれば、それは父と娘がひさしぶりに会い、ひと夏の思い出をともにするというシンプルな物語だと思ってしまうかもしれない。
しかし、たびたび織り込まれるフラッシュバックのシーンや、そもそも全体がそれから20年後の主人公の回想のなかで展開されていることから、作品は異なる顔をのぞかせ、つぶさに観ていれば観ているほど、混乱のなかに投げ込まれることになる。
“配信”という映画観賞の形態が日常的になってきてはいるが、この「aftersun/アフターサン」は、劇場で観た後にもう一度、いや二度、三度、場面を遡りながら観賞したくなる作品だ。
(c) Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022
20年後の娘の視点からの映像
11歳の少女ソフィ(フランキー・コリオ)は、「兄」のようにも見える31歳の父親カラム(ポール・メスカル)と一緒に、イギリスからトルコのリゾート地へとやってくる。ふだんは別々に暮らしているソフィにとっては、父親とひさしぶりに過ごす貴重な夏休みだ。夜になってホテルに着いた2人だったが、フロントには誰もおらず、旅はいきなり不穏な空気に包まれる。しかも頼んだ部屋はツインだったにもかかわらず、ベッドは1つしかない。カラムは簡易ベッドで眠ることになり、ソフィが寝息を立てるとバルコニーで独り煙草を吸う。
とはいえ、翌日から2人は降り注ぐ陽光のもとでリゾートライフを楽しむことになる。パラセーリング、ダイビング、ビリヤードなど海辺のリゾートのアトラクションは豊富だ。なかでもプールサイドでの日光浴で、カラムがソフィの背中に日焼け止めを塗るシーンは、2人の親密度をあらわす少しハッとさせられ場面だ。
(c)Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022
夜、2人はカラオケを楽しむ催しものに出かけるが、一緒に歌おうというソフィの誘いに対して、カラムは頑なに拒否の姿勢を示す。そのことから2人は言い争いになる。
「お金もないのに」というソフィの言葉をきっかけに、カラムは先にホテルに戻ると言って、ソフィは1人で取り残される。
ソフィは昼間にレーシングゲームで知り合った少年と再び出会い、彼とたわいのないキスを交わすが、思い直して1人で部屋に戻ると、ドアには鍵がかかっていた……。