中国料理のイメージが変わる体験
西湖の水を引き入れた蓮池など、庭園の緑を望む個室で、旬の食材を使ったおまかせコースをいただいた。中国料理の前菜といえば、ついつい広東風の中華クラゲやきゅうりの酢漬け、チャーシューなどのロースト肉の盛り合わせを思い浮かべる。ここ杭州でも、定番としては、名物の皮蛋や酔っ払い鶏などをシンプルに提供するのだが、ワンシェフの料理は、盛り付けから、そのイメージを覆す。
訪れた5月中旬は豆の季節。「初夏の花」と名付けられた皿は、まるでモダンフレンチの一皿のよう。そら豆のピュレに揚げたそら豆でクランチーなテクスチャを加え、季節のエディブルフラワーをあしらい、その花も、香り高いジャスミンや食欲をますニンニクの花など、香味がもたらす効果まで考えられ、一口ごとに違った印象を与える。
水の都らしい、水をベースにした料理としては、鶏のコンソメのような清湯を使った魚の団子のスープが、日本の出汁を思わせるような、透明で澄んだ味わいだ。
料理だけでなく、ドリンクも充実しており、ペアリングはシャンパーニュ、中国ワイン、年代物の紹興酒、中国茶などを織り交ぜた内容だった。
白子のフリットに地元の名産のキャビアを載せたものには、レモンジュースのような酸味のあるリースリングを、甘めに仕上げた卵黄と江南特産の蟹の組み合わせには、甘さを切る中国茶で、珍しいスモークしていないラプサンスーチョンが合わせられた。
辛みを効かせた牛肉麺は、通常はしっかりと火を通した肉を使うが、上質の牛肉だからこそできる、さっと湯通ししただけのロゼ色の薄切りの牛肉をのせた仕上がり。これには、炭酸の刺激を和らげるためにあえてデキャンタージュしたエグリ ウーリエのロゼシャンパーニュを。
甘さを控えてクリアな水のおいしさを引き立てた旬の枇杷のコンポートには、燕の巣を詰め、ドメーヌ・ド・ラ・ボングランの貴腐ワイン、キュヴェ・ボトリティスを合わせることで、甘味を口内調味で調節できるようになっていた。