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2023.06.08

「この世にまだないフィジカルな体験」を探し求めて 〜中山桃歌(クリエーティブ・テクノロジスト)<電通グループで働くネクスト・クリエイターの肖像#6>

日本国内の電通グループ約160社で構成される「dentsu Japan」から、ネクスト・クリエイターの目覚ましい仕事を紹介していく連載企画。

今回は、人の心を動かす表現開発や社会課題の解決を実践しているDentsu Lab Tokyoの中山桃歌が登場。Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香が、彼女の仕事の本質に迫る。


中山桃歌は、Dentsu Lab Tokyoに所属するクリエーティブ・テクノロジストだ。

Dentsu Lab Tokyoは、「人間とテクノロジーに対する理解」と「クリエイターの視点」を併せもったメンバーが技術を新しい視点でとらえ、かつてないソリューションやコンテンツを生み出し、企業の新製品やPoC(Proof of Concept /概念実証)の開発をサポートしている。

つまり、中山桃歌はクリエーティブとテクノロジーの融合によって新たな感動体験を創造している。人々の心を動かし、その先にある社会課題の解決につなげて、新たな未来を実装するのが使命である。

人の心に作用するものをつくりたい

谷本有香(以下、谷本):中山さんは過去のインタビューにおいて「私は役に立つものをつくりたいのではなく、人の心に作用するものをつくりたい」と語られていますね。いきなり鋭角な質問で恐縮ですが(笑)、まずはこの言葉の真意から教えてください。

中山桃歌(以下、中山):大学の学部時代には腹腔鏡手術ロボットのアームの先端に付ける鉗子(かんし)の研究室で制御工学を学んでいました。つまり、「役に立つものを、どうつくるか」という課題と向き合っていたわけです。

その後、東京大学の大学院に進み、デザインとエンジニアリングを研究している山中俊治先生のもとで学び始めると、今度は「何をつくるか」から問われるようになりました。「何をつくってもいい。ただし、人の心を動かすこと」という課題と向き合うことになったのです。

谷本:「役に立つ」とはすなわち、機能的・効率的であることですよね。それに対して、「人の心を動かす」ためには、機能的・効率的な価値とは異なる地平で人間をアトラクトする何かが必要になるでしょう。決まった答えが存在しないなかで、その何かを探し出すのは大変なことではないかと推察します。

中山:私の場合は「実際に自分の目で見て体験して驚きたい!」という想いが、研究の起点になってきました。まずは自分自身が、クスッと笑ったり、ハッとさせられたりといった心の動きに対して敏感でありたいと思っています。

谷本:発想や思考のダイヤグラム(図表)にしっかりと人間の感情を入れておくことが大事であると、私は思います。感情を切り捨てて生まれたプロダクトやサービスの一体どこに人間を惹きつける部分が含まれるのかと思います。あらゆるカテゴリーのつくり手にとって、「自分の感覚を信じること」こそが活動の起点になるのではないでしょうか。

中山桃歌 Dentsu Lab Tokyo クリエーティブ・テクノロジスト

 「ロボットの動き」と「人間の心の動き」

谷本:「人の心に作用するもの」として、実際にはどのような作品を手がけてこられたのでしょうか。

中山:大学院時代から研究してきたのは、端的に言うと「どんな動きに人は興味をもち、かわいいと思うのか」についてです。人間は、どのような動きを見ると生き物っぽいと思うのか。人工物に対する人間の愛着は、どのような経緯があって生まれるのか。そのあたりをロボティクスで探っていきたいと考えていました。

谷本:
「ロボットの動き」と「人間の心の動き」の関係性を探ってきたわけですね。

中山:
構造的にはヒューマノイド(人型ロボット)でなくていいのです。例えば、生き物とは対極にあるかのように見える黒い箱でもいいわけで……。『iki-mono』と題した作品は、5台の黒い箱がお互いに作用して意志があるかのような動きを見せます。

センサーにより、人間が近づいた場合も逃げるような動きを見せてくれます。そうした動きだけでも「生き物っぽい」とか「かわいい」と思ってもらえるおもしろさがあって、そこからはじまる可能性の広さや深さに私自身が驚きました。

谷本:明らかに人工物なのに生きているように見えることに対し、人間は不思議な違和感を覚えるわけですよね。ある人は、それを「かわいい」と感じ、別の人はそこに「癒し」や「心地よさ」を感じるのかもしれません。いずれにしても「ロボットの動き」と「人間の心の動き」には、研究の余地がありそうですね。サイエンスは、まだまだ人間(の心と身体)において未踏の領域を残していますからね。

中山:確かに、人間にこそ未踏の領域が残されていると思います。

谷本:最近のクリエーティブ・テクノロジストとしてのお仕事のなかで、そうした未踏の領域を探索しているような事例はありますか?

中山:2020年から、昭和大学医学部生体調節機能学研究室と電通で共同研究を進めています。『ART for Medical』というプロジェクトです。これはアートの力で医療を身近で楽しいものにアップデートしていく取り組みであり、一昨年から昨年にかけては「呼吸の可視化」によって新しい医療の可能性を模索するメディアアート(デジタルテクノロジーを活用した芸術作品)の展示を行っています。

いくつかの作品を展示したのですが、そのひとつが『SEE MEDICINE』です。ペンデュラム(振り子)が体験者の呼吸と共鳴して、砂の上にリアルタイムな軌跡を描き出します。
昭和大学上條記念ミュージアム『昭和大学医学部 医療と芸術の汽水域vol.1 呼吸を見る展』の展示会場にて。『SEE MEDICINE』は、体験者がひとりで自分の呼吸を見るだけに終わらない。33名分の呼吸の軌跡が砂絵となって浮かび上がる。

谷本:「呼吸の可視化」という発想が斬新ですね。呼吸がどのような仕組みによって可視化されていくのでしょうか。

中山:まず、体験者にベルト型のセンサーを付けてもらって、胸が膨らんだり縮んだりする動きを検出します。その膨らみと縮みの動きを電気信号に変換し、息を吸うと手前に、吐くと奥に動くように2軸上を移動するXYロボット(に付けた磁石)で振り子を制御します。

無意識に行っていた呼吸を砂絵として可視化されると、体験者は呼吸を意識的に行おうとする反応を示します。円滑な呼吸を促進できるなら、呼吸器系疾患の治療やリハビリテーションにも応用できる可能性があるというわけです。

谷本:振り子の動きを見ているうちに呼吸が整っていくのであれば、それはもう瞑想やヨガのような作用を人間の心にもたらすとも考えられます。この『SEE MEDICINE』というメディアアートは、医療の現場以外でも大いに活躍するのではないでしょうか。

谷本有香 Forbes JAPAN Web編集長/執行役員

「この世にまだない体験」を生み出していく

谷本:中山さんは、電通グループでクリエーティブ・テクノロジストとして働くことの意味や意義についてはどのようにお考えでしょうか。

中山:私は「この世にまだない体験」を生み出そうとしています。ですが、「この世にまだない体験」に対してベット(投資)してくれる会社って、この世にあまりないのではないかと思います(笑)。

高校時代からの友だちは、『SEE MEDICINE』を体験した際に「呼吸することを肯定してくれて嬉しい」「ただ生きていることを肯定してくれたのが嬉しい」という感想を述べてくれました。このようなポジティブな反応と出会えるのは、電通グループでクリエーティブ・テクノロジストとして働いているからだと素直に思いますね。

谷本:そもそもクリエーティブ・テクノロジストとは、どのような個性を有した職業だと定義できるのでしょうか。

中山:自分のアイデアを示す際に「まだ言葉にできないようなことをプロトタイプ段階で提示できる」のがクリエーティブ・テクノロジストだと、私は思っています。他のクリエーターは自分がやりたいことを他者に伝える際、「タイトル」と「それがどうしていいアイデアなのかを裏付ける言葉たち」と「それらの言葉にフィットする絵」を1枚にまとめたりします。

言葉を超えて、ノンバーバルでビジョンを示せるのがクリエーティブ・テクノロジストです。特に私はフィジカルな体験に強いアンテナを張っていられるクリエーティブ・テクノロジストでいたいと思っています。自分の手を動かして「この世にまだないフィジカルな体験」に落とし込めるクリエーティブ・テクノロジストでいたいですね。

谷本:
リアルな身体性を伴った体験のなかで、まだ人間が言葉としてうまく表現できないような感情を呼び覚ます。それが、中山桃歌というクリエーティブ・テクノロジストなのですね。

これから先、人間は経済的合理性だけでは解決できない数多くの課題に挑まなければならない。いまこそ、もち得る感性(機微を感じ取る能力)と知性(道理を見きわめる能力)を総動員するときだ。

そうした前提に立ってみると、クリエーティブとテクノロジーを融合させて新たな感動体験を創造しようとするクリエーティブ・テクノロジストの働きにこそ、光明が見える。

これから中山が生み出す「この世にまだないフィジカルな体験」により、私たちの感情はどのように拓かれていくのだろう。楽しみで仕方がない。


なかやま・ももか◎2015年、東京工業大学制御システム工学科を卒業。2017年、東京大学 学際情報学府 先端表現情報学コースを修了後、電通に入社。主な作品は『iki-mono』(ADAA2017入賞)、『+move 』(SXSW2017出展)、『Nikeé in water』(東京大学生産技術研究所70周年記念展示もしかする未来in駒場「ぞわぞわ」出展) 、『SEE MEDICINE』(「昭和大学医学部 医療と芸術の汽水域vol.1 呼吸を見る展」出典展)など。

連載 電通グループで働くネクスト・クリエイターの肖像
#1 公開中|「データで駆動するAI」と「感情で駆動する人間」の関係性を変える|石川隆一 
#2 公開中|議論と翻訳と傾聴がデータを生かす道|鈴木初実(データアーティスト)
#3 公開中|技術と人間の接点に感動を|村上晋太郎、岸 裕真、西村保彦
#4 公開中|現場目線と経営目線の複眼でAIプロジェクトを推進|児玉拓也(AIビシネスプランナー)
#5 公開中|寄り添う者に心の目を向けるとき、人間は幸福を感じる| 渋谷謙吾(モノを動かすエンジニア)
#6 本記事|「この世にまだないフィジカルな体験」を探し求めて| 中山桃歌(クリエーティブ・テクノロジスト)

Promoted by dentsu Japan / text by Kiyoto Kuniryo / photographs by Shuji Goto / edit by Akio Takashiuro

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