英政府は5月中旬に、ウクライナにストームシャドーを引き渡し、弾頭の重さ約453キロ、長さ5メートルのこのミサイルを発射できるようウクライナ軍がすでに保有していた機体を改造したことを認めた。ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相が5月24日にツイッターに投稿した写真には、黄色の「60」という機体番号が入ったSu-24MRが機体右側下にストームシャドーを抱えて離陸するところが写っている。
ベン・ウォレス英国防相はこの写真に「ウクライナの栄光のためにすべてを賭ける勇敢な『少数』のみなさんへ」という言葉を書き込み、署名している。第二次世界大戦中にドイツ軍の急襲から英国を守った少数の勇敢な英空軍パイロットにちなんだメッセージだ。
100万ドル(約1億4000万円)を超えるストームシャドーはウクライナ空軍と相性が良い。このミサイルは高度な自律性を備えており、さまざまな機種で使用することができる。ストームシャドー、そしてフランスやドイツが保有する同種のミサイルはトーネード攻撃機やミラージュ2000、ラファール、ユーロファイターといった戦闘機に搭載されてきた。
ステルス性の高いストームシャドーは、昨年から米国がウクライナに供与してきたGPS誘導爆弾や、自らレーダー波を照射してその反射波を感知して目標を追尾するミサイルよりも、ウクライナ空軍の機体に搭載するのが容易だっただろう。Su-27と戦闘機MiG-29を米供与の兵器に対応させるために請負業者は翼下に支柱を即席で作り、コックピットに新たに設置したディスプレイとつなげた。
その一方でミサイルメーカーのMBDAは最大限使いやすいようにストームシャドーを設計した。この使い勝手については、イタリア空軍のテストパイロット、エンリコ・スカラボットが「パイロットへの作業負荷が非常に少ないコックピット環境」と表現している。
ストームシャドーのプログラミング作業のほとんどはミッション前に地上で行われる。技術者はストームシャドーのデータプログラミング・システムを使ってミサイルに攻撃する場所と角度を指示する。
ストームシャドーはGPS座標に向かって飛ぶが、飛びながら下の地形をスキャンし、既知の特徴と照合することでコースを修正する。攻撃目標に近づくとミサイルの先端が開いて赤外線探知装置が現れ、目標の熱分布をスキャンして命中するようミサイルを誘導する。
つまり、ストームシャドーを発射するのに乗員はミサイルが認識する最初の地点にミサイルを届ける以外、さほどすることはない。ストームシャドーを新しいタイプの機体に搭載する主な作業は、パイロンという物理的なインターフェースの取り付けと、空中でハプニングが起きないようにするための飛行機とミサイルのペアリングのテストだ。
こうした作業の容易さにより、ウクライナ空軍と英国はわずか3カ月で8機以上のSu-24MRにストームシャドーを搭載し、戦闘でダメージを受けた第7戦術航空旅団内に新しい長距離攻撃戦隊を編成することができた。
偵察機からミサイル運搬機になったスホーイはすぐに仕事に取り掛かった。ここ数日、マリウポリとベルディアンスクのロシア軍が占領している港にある同軍の兵站拠点での爆発は、ストームシャドーによる攻撃の可能性を示している。この2つの港は前線から160キロ近く離れており、ウクライナ軍が保有するストームシャドー以外の兵器では射程圏外だ。
レズニコフ国防相は5月28日、Su-24の乗員が発射したストームシャドーはすべて目標に命中したと明らかにした。
(forbes.com 原文)