昨年11月には、事業の急激な成長拡大にともなう運転資金確保として、大手銀行から総額183億円の資金調達(融資枠を含む)も行っている。
まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで成長するタイミーだが、創業者の小川嶺にとっても、そのスピードは想像以上だった。
小川は急成長の理由を、時流に乗ることができたからだと分析する。サービスをローンチした頃は、社会的にも労働環境改善への関心が高まっていた。働き方改革やブラックバイト、終身雇用制の限界などが話題となり、副業やフリーランスという選択肢も浸透しつつある時期だった。
こうした背景を受けて、新聞やテレビなどのメディアから取材を申し込まれることも多く、露出が増えるにつれてサービスの認知は広がっていった。
「当時は人手不足や働き方に時流がありました。タイミーは僕の原体験からできたサービスですし、アルバイト現場の情報をしっかりキャッチアップできていたからこそ受け入れられたのだと思います」
>>前回 #2タイミー創業者の究極の決断。学生起業家から「普通の学生」に
自分自身の存在価値に疑問
順調に成長だけを続けているように見えるが、好調であるがゆえの悩みもあった。従業員数が100人を超えたあたりから、社員との距離が離れていったのだ。創業者としてすべてを自分でハンドリングできたフェーズから、権限移譲を進め、企業として組織を整備していくフェーズに入ったとき、自分自身の存在価値に疑問を感じるようになった。小川はその悩みを、学生起業家の先輩であり、株主でもあるサイバーエージェントの藤田晋に相談した。
「藤田さんには『そこで辞めるならそこまでの人間なんじゃないか』と言われました。今、タイミーは“0→1”のフェーズから“1→10”のフェーズに入っているので、そのチャレンジをするかどうかは僕次第だと。日本を代表する経営者である孫正義さんも三木谷浩史さんも、藤田さんもその壁を乗り越えて、さらにその先のステージに到達しているんだと言われたとき、僕は逃げようとしていただけなんだと気づきました」
そこで小川は、社員の前で自身の新たなフェーズへのチャレンジに協力して欲しいと素直な思いを伝えた。大きな責任から逃げようとした自身の弱さに気づき、経営者としての成長をつかんだのだ。