AI革命と学校の進化

もう10年以上前のことであるが、かつて、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズのブレーンとして働いていた米国の友人が、こう語っていたことを思い出す。「これからは、ビジネススクールよりも、デザインスクールを出た人間が活躍する時代になる」

この友人の勧めもあり、筆者は、毎年、Technology,Entertainment and Designと銘打ったTED会議に出席したが、いま、劇的に展開するAI革命を見るとき、改めて、彼の慧眼を思う。なぜなら、ChatGPTの出現に象徴されるAI技術の驚異的な発展によって、これから、人材に求められる条件が根本から変わり、その結果、教育機関に求められる条件も大きく変わっていくからである。

では、人材に求められる条件は、どう変わっていくのか。そのことを、筆者は、著書『能力を磨く』や『人類の未来を語る』で明確に語ってきたが、その要点を「2つの変化」として述べておこう。

第一は、AI革命によって「言語知の記憶力」よりも「身体知の修得力」が重要になる。書物や文献やウェブから「専門知識」を学ぶ能力よりも、仕事の経験や体験から、スキルやセンス、テクニックやノウハウを身につける能力が重要になるのである。

実際、ChatGPTのような対話型AIは、ウェブ上の膨大な専門知識を瞬時に検索し、どのような質問にも、分かりやすく答えてくれるが、こうした「言語知」を扱うAIの能力は、もはや、人間を圧倒的に凌駕するため、人間の強みは「身体知」に向かう。

第二は、「論理的な思考力」よりも「感覚的な判断力」が重要になる。すなわち、「答えの有る問題」に対して、論理的に考え、正しい結論に辿り着く能力よりも、「答えの無い問題」を前に、直観や感性、想像力や共感力を十全に発揮し、感覚を使って判断を下す能力が重要になるのである。

実際、将棋や囲碁の天才棋士も、もはやAIには全く敵わないように、「論理的な思考力」についても、AIの能力は、すでに人間を遥かに超えているため、人間の強みは「感覚的な判断力」に向かう。では、このように、人材に求められる条件が根本から変わる時代に、教育機関に求められる条件は、どう変わるのか。学校は、どう進化すべきなのか。

まず、専門技能修得や職業資格取得ができず、ただ「専門知識」を学ぶだけの大学、ブランド力や特長の無い大学は、確実に淘汰されていく。それは、AIの普及によって、専門知識を身につけていることの相対的価値が下がっていくからであり、専門知識を学ぶだけなら、ChatGPTのようなAIが親切に教えてくれるようになるからである。

一方、「身体知」の時代には、実践体験的な学びを通じて、様々なスキルやセンス、テクニックやノウハウなどの技能修得ができる専門学校や短大が注目されるようになるだろう。また、直観や感性、想像力や共感力を磨ける、美術大学や芸術大学、アート系専門学校なども、「感覚的な判断力」が求められる時代に、新たな形で注目を集めるだろう。
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この記事は 「Forbes JAPAN 2023年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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