北米

2023.06.01 17:30

銀行の破綻処理と預金保険

伊藤隆敏の格物致知

アメリカの銀行破綻が続いている。3月に3行が破綻した。8日にシルバーゲートが銀行子会社を自主清算、10日にはカリフォルニアのシリコンバレー・バンク(SVB)、12日にはニューヨークのシグネチャー・バンクが破綻した(SVB破綻については前回のコラム参照)。

さらに、ファースト・リパブリック・バンク(FRC)からは資金流出が続き、3月16日には、大手11行が合計300億ドル(約4兆円)の預金をFRCに預け入れて流動性を助けていた。

しかし、それでも資金流出は止まらず、5月1日には、預金保険公社によって破綻認定がされた。FRCの預金と資産はJPモルガン・チェースが買収すると発表した。SVB、シグネチャー、FRCの破綻に共通なのは、急速な預金の流出がきっかけとなったことだ。

そして預金の大量流出の原因となっているのは、預金保険の限度額を超えている預金保険対象外の大口預金の存在である。

預金保険対象の預金は、銀行が破綻したときには、一時的に預金が封鎖され、その後の支払いにおいて、元本削減される可能性がある。したがって、一般論として、銀行破綻を示唆するような発表(例えば、損失発表)や、経営不安のうわさがでると、預金保険対象外の預金はすぐにほかの銀行や、投資信託(MMF)に逃げることになる。

今回は、まさにこの預金流失が起きたことが、破綻の引き金となった。またSNSでうわさが広がり、大口預金の流出が急速だったことは、デジタル時代の新しい現象だ。

例えば、FRCは、1ー3月期に、12月末時点の預金の40%超が流出した。預金流出が起きると、銀行は資産の売却によって対処しなくてはならないが、資産には長期国債や長期貸出があり、短期間に売却しようとすると簿価を大きく下回る価格でなくては売れないので、資本を毀損することになる。

そして破綻に至る。今回のケースでは、SVBは低クーポン利率の長期国債を保有していたが、昨年の急激な金利引き上げの影響で、資産側に評価損が累積していたことになる。

預金引き出しは、この国債の売却で対応せざるをえなくなり、評価損が実現損になり、損失が公表されることになった。それが、さらに預金流出を招く、という悪循環に陥った。今回の銀行破綻に預金流出が果たした役割が大きかったとの認識から、預金保険の在り方に関心が集まっている。
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文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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