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2023.05.29

投資家から「共感」され続けるために、IR担当者がすべき発信とは

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前回の記事では、Z世代が「共感」に基づく行動をし、「共感経済」を実践していることを述べました。この「共感経済」は新しいコンセプトのように思われますが、実は250年前にアダム・スミスによって提唱されました。

スミスはスコットランドの思想家であり、「国富論」という市場経済に関する著作で知られています。ですが、実はそれより前に「道徳感情論」という著作を発表しています。この二つの著作は密接に関連しています。

「道徳感情論」では、個人の道徳心が社会の基盤となり、他者への共感が人間の行動の動機となることが述べられています。「国富論」では、市場経済における自己の利益追求が相互依存と相互利益をもたらし、個人と社会の両方が繁栄すると主張されています。

「称賛される」よりも重要なこと

スミスはこれらを通じて、個人の道徳心と他者への共感が市場経済の健全な発展に不可欠であると主張しました。しかし、なぜか長い間、「国富論」と一部の人間の利己心に関する記述が注目されてきましたが、今、この忘れられていた「道徳感情論」と「共感」の重要性をZ世代が再び表舞台に引き戻しているのです。

スミスは単に共感を肯定したわけではありません。共感を得るためには、ふさわしい行動が必要であり、「称賛される」ことよりも「称賛に値する」ことが重要だと述べています。前回の記事でも紹介したように、Z世代も共感する対象がオーセンティック(本物)であることを重視しています。

ここで、連載のテーマであるIR(投資家向け広報)とナラティブに話を移しましょう。熱意に満ちたパーパスや優れたナラティブによって、投資家の共感を得て資金調達をしても、重要なのは、「共感に値する」中身です。投資家(ファンドマネージャー)は、一度共感したストーリーが本物であるかどうかを常に見極めています。

スミスは、聡明な人であれば、自ら「中立な観察者」となり、称賛に値するかどうかを観察するよう努力すると説明していますが、株式市場にもその存在が必要です。
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文=市川祐子 編集=露原直人

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