アジア第2の規模を持つ日本経済だが、当時は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって追い詰められていた。しかも、硬直化した経済を改革する試みも、ここ25年間にわたって気休め程度のものにとどまっていた。ゆえにこの2020年8月の時点で、日本は、投資の達人たちの「要投資先リスト」に入るような状況とはとても言えなかった。
さらに興味深いことに、バフェットの投資先は、巨大な成長可能性を持つ新興企業や、斬新な技術を持つ再生可能エネルギー企業ではなかった。バフェットが代表を務めるBerkshire Hathaway(バークシャー・ハサウェイ)は「オールド・ジャパン(伝統的な日本企業)」である伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事という大手商社5社に賭けたのだ。
当時焦点となったのは、果たしてバフェットの逆張りは実を結ぶのかという点だった。そして今や、バフェットがこの賭けに勝ったことは周知の事実だ。しかも大勝ちしたのだ。
直近の決算発表シーズンを見ると、バフェットが投資先に選んだ5社は、どこも屈指の好パフォーマンスをたたき出している。バフェットが投資を開始して以来、5社の株価は80~230%上昇し、バークシャー・ハサウェイが好む投資先であるApple(アップル)やCoca-Cola(コカコーラ)を伸び率で上回った。
そして今「オマハの賢人」の名でも知られるバフェットは、日本株投資の範囲を広げるという意図を公にしている。4月には、投資先を見定めるために日本を訪れた。だが、どのセクターや企業を候補に考えているのかについて、バフェットは明言しなかった。
ただし、筆者の目は、これは問いの設定そのものが誤っているように見える。問いかけるべきは、次にバフェットがどの銘柄を買うかではない。バフェットの莫大な資産を自国に引っ張ってくるために、そして、彼と同じような投資家が、株価が割安な企業に資金を投じようとして東京や大阪に足繁く通うようにするために、日本政府が何をしているのかという点だ。