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2015.07.01 14:28

オランダ政府が「スタートアップの海外進出」を支援する理由

左:オランダ元国会議員、欧州委員会委員も務めたネリー・クルースさん(73)(Courtesy European Commission)

左:オランダ元国会議員、欧州委員会委員も務めたネリー・クルースさん(73)(Courtesy European Commission)



多くの国が、自国に第二のシリコンバレーを作る野望を持っている。イギリスは「シリコン・ラウンドアバウト」と「シリコン・フェン」を盛んにアピールしており、アイルランドには「シリコンドックス」、ドイツのベルリンには「シリコン・アレー」、イスラエルのテルアビブには「シリコン・ワディ」、フランスのパリには「シリコンサンティエ」がある。

オランダの場合、アイントホーフェンという都市にIT産業が集積しているが、オランダ政府は自国のテック企業を活性化させる取組みにおいて、他国よりも遠回りなアプローチをとっている。オランダでスタートアップのための特命使節を務めるネリー・クルースは「有望な起業家を国外に送り出し、より大きなビジネス機会を提供するべきだ」という意見を持つ。
「彼らはまずアメリカでビジネスを展開し、ゆくゆくは事業を拡大してヨーロッパに戻ってくる。ビジネスはグローバル化している」

オランダの元国会議員で欧州委員会の委員も務めたネリー・クルースは73歳。フォーブスの「世界で最も影響力のある女性100名」にこれまで5回選ばれている。オランダのスタートアップの旗振り役であるクルースは、自国の起業家らと、海外の投資家とを結びつけるために、今月初めにボストンとニューヨークを訪れた。秋にはテルアビブとシリコンバレーも訪れる予定だ。また、彼女はオランダのハイテク業界で成功した先達たちに、若手起業家たちの指南役を依頼している。
「起業家らに銀行やベンチャーキャピタルの見つけ方やプレゼンの仕方などを伝授してもらい、かなりの成果をあげている」とクルースは話す。

スタートアップの海外進出を奨励する背景には、そうせざるを得ない国内事情がある。オランダの教育水準は高く、ハイテク企業が育つインフラも整っているが、人口は1,700万人に満たず、オランダ語が通用する国は少ない。国内市場だけでは、大きなビジネスモデルを描くことは出来ず、自然と国外に目が向くようになっている。「小国で育ったオランダ人の意識は、昔から外に向かっているのです」

オランダで誕生し、海外進出を果たしたスタートアップには、決済サービスのAdyen(Facebook、Spotify、Airbnbが使用)、エンタープライズアプリケーション開発のMendix(現在の拠点はボストン)、Shapeways(現在の拠点はニューヨーク)、食事宅配プラットフォームのTakeaway.comなどがある。さらに前の世代であれば、半導体業界大手のAMSLが挙げられる。AMSLは、やはりオランダ生まれでエレクトロニクス業界の世界的企業であるPhilipsをルーツにもつ。

クルースによると、オランダのスタートアップは、国民性のせいか謙虚過ぎる傾向があるという。
「一般的に、オランダ人は成功しても出しゃばらない」とクルースは話す。一方、アメリカの起業家たちは自分の能力以上のことを成し遂げようとしたり、他者よりも素早く動くが、ときには失敗もする。アメリカのハイテク業界では、自分の成果やビジネスプランを声高にアピールしなければ、相手にしてもらえない。
「アメリカは失敗を許容する文化がオランダよりもはるかに浸透している」とクルースは指摘する。「次のチャレンジで成功するためには、失敗を経験することは大切だが、オランダではまだそれを受け入れる土壌がない」とクルースは言う。

海外進出を促進すれば、米国の投資家らが有望なオランダ企業を囲い込む懸念もある。しかし、クルースはこうした考えには否定的だ。
「ハイテク製品は市場を限定されないのが強みです。ベンチャーキャピタリストたちは新しいチャレンジに関心があり、常に最初に行動する人間でありたいと考えている。彼らにどんな投資機会があるかをプレゼンすることは重要です」

オランダを拠点に起業家と投資家らを結ぶネットワークStartupDeltaを運営するSigrid Johannisse氏は次のように語る。「VCにとっては、米国よりもヨーロッパのスタートアップの方が遥かにお買い得です。ヨーロッパ市場に目を向けることは、彼らにとっても大きなチャンスです」

クルースは一方で、オランダ国内の投資家らがスタートアップに出資する動きも促進している。オランダの年金基金はこれまで主に海外に投資をしてきた。「基金の一部をオランダ国内のベンチャーファンドで運用することも有意義であることを認識してもらいたい」とクルースは述べている。

文=カーステン・ストラウス(Forbes)/ 編集=上田裕資

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