パリ市が五輪関係者に提案したのは、セーヌ川を開会式の会場とし、トライアスロンなどの競技にも使用することだった。だが、セーヌ川には金属や大腸菌が多く含まれているため、1923年以降、遊泳が禁止されている。
セーヌ川が通る市内の地区では、住宅やオフィスの配管が古く、下水が漏れる問題に発生しており、大雨が降ると、路上の汚物がそのまま川に流れ込む。さらに、セーヌ川を利用する数多くの船が、汚水を直接川に捨てている。
米紙ニューヨーク・タイムズが最近指摘したように、こうした問題に対処するには、下水道と排水システムを強化するための大規模なインフラ整備が必要となる。しかしそのためには、配管工事の許可を得るために職員が一軒一軒訪問し、数多くの住民を説得しなければならない。国から補助金が出るとはいえ、厳しい交渉となるだろう。
プロジェクトリーダーのクレール・コステルは英紙タイムズに「難しい問題だ。住民に強制的にドアを開けさせることはできないから」と語った。
公害はパリ市内にとどまらず、近郊の工場やその他の産業地帯でも問題となっている。フランス北部ルーアンの工場で2019年に火災が起きた際には、有毒化学物質がセーヌ川に流出する恐れがあると当局が警告。翌年には、セメント工場が危険な汚泥をセーヌ川に流したとして告発された。
当局は、仮に汚染度を許容範囲内に抑えたとしても、大会期間中に大雨が降れば、その努力は水の泡になりかねないと認識している。また、大雨は別の問題を引き起こす可能性もある。セーヌ川は近年、氾濫を繰り返しているのだ。
こうしたリスクはあるものの、市当局は水質浄化計画について、五輪閉幕後も見据えた重要な投資だと考えている。アンヌ・イダルゴ市長は、都心部の自動車を減らし、空気の質を改善することを政策の柱に設定。緑地を増やし、自転車の利用を推進しながら、最終的には2025年にセーヌ川が遊泳用に一般に開放されるようになることを望んでいる。
欧州の英字紙ローカルが報じたところによると、パリ市と近郊のイルドフランス地域圏では、セーヌ川に計23カ所(市内5カ所、郊外18カ所)のプールが設置される計画だ。プールは川の中に設置され、保護された水泳場となる。
セーヌ川浄化計画に投じられる14億ユーロのうち、半分は国が負担する。エマニュエル・マクロン大統領はツイッターに、セーヌ川の浄化は五輪の最も重要な成果の1つになり得ると投稿。セーヌ川と支流のマルヌ川を遊泳可能にすることは「2024年に向けての目標だ」と強調した。
もし成功すれば、パリの夏の風物詩だったセーヌ川での遊泳の伝統が復活することになる。
(forbes.com 原文)