広島ビジョンは「核軍縮に特に焦点を当てた初のG7首脳文書」だと、自らが定義している。岸田首相が昨年8月、NPT(核不拡散条約)再検討会議での演説で表明した「ヒロシマ・アクション・プラン」をベースに、G7各国に働きかけて実現したものだ。「ヒロシマ・アクション・プラン」は、(1)核兵器不使用の継続、(2)透明性の向上、(3)核兵器数の減少傾向の維持など5つの柱で構成している。
核軍縮交渉に携わった経験がある外務省元幹部は、広島ビジョンについて「G7をよく説得したな、と評価できる点も数多くある」と語る。ビジョンは「冷戦終結以後に達成された世界の核兵器数の全体的な減少は継続しなければならず、逆行させてはならない」とうたう。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)などによれば、世界の核兵器の数は1980年代後半から減少傾向が続いている。2022年1月時点で約12700発だ。
ただ、減少傾向の維持について、一部で懸念の声も出ている。例えば、5400発余りの核兵器を保有する米国だが、戦場や戦域で限定的に使用する戦術核は150発程度だとされる。トランプ政権が2018年に発表した「核態勢の見直し(NPR)」には、核を搭載した潜水艦発射巡航ミサイル(SLCM)の開発が盛り込まれていたが、バイデン政権のNPRでは、「核への依存を減らす政策の象徴」として、この方針をキャンセルした。米国はSLCMがなくても、中国やロシア、北朝鮮を抑止できると判断したと考えられる。ただ、外務省の元幹部は「台湾や韓国など拡大抑止に依存する立場からみた場合、米国が戦術核に相当する兵器を保有していないため、中国や北朝鮮が戦術核を使っても、米国が報復をためらうのではないかと疑う根拠となりうる」と語る。
英国も2021年、核弾頭の保有数を減らす方針を撤回し、推計225発とされる保有数の上限を260発に引き上げている。こうした懸念材料を抱えながら、「核兵器の全体的な減少の継続」をうたった意味は小さくない。