北米

2023.05.19 14:00

米学区の人種・LGBTQ書籍禁止、大手出版社などが提訴

米フロリダ州オーランド市庁舎前で開かれた州の教育政策に抗議する集会で、「真の教育のサポートを」などと書かれたプラカードを掲げる人(2023年4月21日撮影、Paul Hennessy/Anadolu Agency via Getty Images)

米フロリダ州オーランド市庁舎前で開かれた州の教育政策に抗議する集会で、「真の教育のサポートを」などと書かれたプラカードを掲げる人(2023年4月21日撮影、Paul Hennessy/Anadolu Agency via Getty Images)

米フロリダ州の学区が有色人種やLGBTQなど性的少数者に関連した書籍を図書館から撤去したり閲覧を制限したりしたのは合衆国憲法に違反しているとして、米出版大手ペンギン・ランダムハウスなどが17日、この学区を相手取って訴訟を起こした。「禁書」扱いされた本を書棚に戻すよう求めている。

訴えられたのはフロリダ州のエスカンビア郡校区。校区の教育委員会は、書籍審査委員会の勧告に反して、有色人種やLGBTQの人についての書籍やこれらの人によって執筆された一部書籍の禁止や閲覧制限を決めた。さらに多くの本を早急に審査すべき対象としてリストアップしている。

ペンギン・ランダムハウスと作家5人、保護者2人、表現の自由の擁護団体「ペン・アメリカ」は、フロリダ州北部地区連邦地裁に起こした訴訟で、エスカンビア郡校区は生徒や学生から「さまざまな視点を知る機会」を奪い、作家から「読者とかかわる機会」を奪っているとし、これは言論や出版の自由などを定めた合衆国憲法修正第1条に違反していると主張。また、有色人種やLGBTQ関連の書籍に偏って標的にしているのは、法のもとでの市民の平等な保護を定めた修正第14条に違反していると主張している。

原告に加わった作家5人はいずれも、自著が撤去や閲覧禁止の処分に遭っている。ペン・アメリカは声明で、エスカンビア郡校区は、職員が「党派的あるいは政治的に凝り固まったやり方で」学校の図書館に置けるものを決めてはならないという指針を定めているにもかかわらず、「特定の考え方や視点の検閲に関心があることをあからさまに示した」と批判した。

エスカンビア郡校区の広報官はフォーブスの取材に、係争中の訴訟についてはコメントできないと答えた。

米国各地の学校に広がる禁書

米国で公立校の図書館の一部書籍を禁止しようとする動きは数十年前からあったが、公立校がその役割を越えて社会問題について教えているのではないかとの懸念から2021〜22学年度に再燃した。ペン・アメリカのリポートによると、同年度だけで32州の138校区で計1648作品が禁止され、子どもおよそ400万人が影響を被った。禁書扱いされた作品のうち、41%はLGBTQをテーマもしくは主な登場人物とするもので、40%は有色人種を主な登場人物とするものだった。

一部の州ではこうした動きがとくに激しく、その筆頭が今回のフロリダ州とテキサス州だ。フロリダ州の地元紙ペンサコラ・ニューズ・ジャーナルの報道によると、エスカンビア郡校区での禁書は女性教員が自分の排除したい書籍100点あまりのリストを提示したのがきかっけだったという。同学校区はその後、区内の全図書館の所蔵作品10万点以上について審査する意向を示している。

ペンギン・ランダムハウスのニハル・マラビヤ最高経営責任者(CEO)は「本には人生をより良い方向に変える力がある。とくに生徒や学生は、さまざまな見方を知る機会を平等に与えられるべきだ」と強調。そのうえで「エスカンビア郡校区が行っている禁書のようなかたちの検閲は、民主主義と、憲法で保証されている権利への直接の脅威だ」と警鐘を鳴らしている。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事