事業継承

2023.05.28 11:00

500年15世代で続く強化策 銃器の老舗ベレッタ一族の家訓とは

とはいえ、フランコの兄でベレッタ・ホールディングのCEOを務めるピエトロ(52)の妻は、プリンストン大学とイェール大学で建築学を修めた米国人だ。夫妻はオーストリアに家をもっており、欧州の社交界では必ず招待されるべき人物のリストに名を連ねている。

フランコと妻のウンベルタ・ニュッティ・ベレッタにしても、フランコがベレッタ米国の仕事の要領を学ぶ4年間は、ニューヨークに住んでいた。ベレッタ家の16代目の御曹司である息子のカルロ(17)は、ニューヨーク滞在中に生まれたのだ。

ベレッタ一族はどの世代も、それまでの事業を強化するか、あるいは思い切った発展を遂げるかで、その伝統を前進させてきた。ことにウーゴは、同社の長い歴史のなかでも最大級のふたつの変化をもたらした。1985年、熾烈な競争に打ち勝ち、半自動式拳銃のベレッタ92が米国陸軍の着装武器として正式採用となった。そして25年前にはライフスタイル企業としてのブランディングに着手し、射撃用アパレル商品やインテリア商品の取り扱いを始めた。ライフスタイル分野への事業拡大は一丁10万ドルの狩猟銃をニューヨークやロンドンで売り出す役にも立った。
工場の裏に立つ 「弾丸の小道」と名付けられた射 撃練習場で、新しい9㎜自動拳銃 を試射するフランコとカルロ。銃 の扱いに慣れたフランコが、穏や かにカルロを指導していた。

工場の裏に立つ「弾丸の小道」と名付けられた射撃練習場で、新しい9㎜自動拳銃を試射するフランコとカルロ。銃の扱いに慣れたフランコが、穏やかにカルロを指導していた。

<家訓>

・必ず故郷の地を拠点とせよ
・伝統を前に進め続けよ
・ビジネスには長期戦で臨め

幅広い事業展開はベレッタ親子の「集団思考」であり、彼らの真の姿ともいえる。この10年にも、彼らはふたつの大胆な事業展開を行った。ひとつは旅行事業で、既存のツアー業者と組んでの高級狩猟用ロッジの運営だ。その名も、ベレッタの3本の矢のロゴから取った「トライデント」。

もうひとつは、一族の地所にあるブドウ園の商業化だ。屋敷から車で45分ほどの土地でつくられるワインはさわやかな発泡性の白ワインで、すでに市場に出荷されている。ほかにもいくつかのブドウ園を購入しており、キャンティやそれ以外でも良質の赤ワインがつくられている地区のブドウ園を手に入れ、世界一流のワイン醸造家を雇い入れて運営を任せている。

重要なのは、こうした事業の拡大が、それ自体を目的に惰性で行われているのではないということ。ファミリービジネスの創業から500年近くたってもなお、ベレッタ家の男たちは長期戦の構えでい続けているということなのだ。

文=ガイ・マーティン 写真=フルビオ・マイアーニ 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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