背景には、昨年のLVMHの躍進ぶりがある。売り上げ、利益、株価がそろって過去最高水準に達し、この12カ月間にアルノーの個人資産は530億ドルも増えた。ビリオネアの中でもこの1年間で最大の伸びだ。その結果、フォーブスの推定では、アルノーの資産は2110億ドルとなり、昨年首位だったイーロン・マスク(今年は2位)を310億ドル上回った。
LVMH傘下には、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、ティファニー、セフォラ、ジバンシィ、マーク ジェイコブスなどおなじみのブランドが名を連ねるが、エンジニアとしての教育を受けたアルノー自身の名前はそこまで一般に知られていない。
アルノーは、LVMHの経営権を取得して以来約30年間で、同社を世界最大の高級ブランド企業へと成長させた。現在、傘下のブランドは70以上もあり、世界中に固定客がいる。巨額の買収が功を奏し、売り上げは89年の40億ドルから22年は860億ドルへと大きく伸び、株価はこの1年間で35%も急騰した。
アルノーがフォーブスのビリオネア・ランキングに初登場したのは97年のことで、当時の資産は31億ドルだった。その後、短期間で順位を上げ、05年には170億ドルで上位20位に食い込み、11年には410億ドルで4位につけた。18年には、前年の415億ドルから710億ドルへと飛躍的に増えたが、それでも4位のままだった。直近3年間はマスクと、アマゾン・ドット・コムの創業者であるジェフ・ベゾスに次ぐ3位につけていた。
LVMHブランド、人気の秘密
アルノーが、伝統的な高級品の魅力を維持する術を心得ているのは明らかだ。「ルイ・ヴィトンやディオールといったブランドがなぜ人気か?それは、相反する2つの特徴を備えているからです。時代を超越していること、そして、このうえなく現代的であることです」と、彼は19年にフォーブスの取材に答えている。
メゾンの一つ、ルイ・ヴィトンは、2000ドルもするハンドバッグや時計、宝飾品、衣料品を手がけ、昨年の売り上げは217億ドル(200億ユーロ)に上った。
LVMHは新しいデザイナーと新しいブランドを迎え入れることで、優位性を確保してきた。同社によると、17年にポップスターのリアーナのプロデュースによるコスメブランドの「フェンティ ビューティー」を立ち上げると、19年には売り上げが5億5000万ドルにまで成長し、昨年の売り上げはさらに2倍に増えた。