車は停止しなかった。裁判記録によると、そのまま米フードデリバリー最大手DoorDash(ドアダッシュ)の注文品の配達を行い、運転手のトッド・バートンは報酬として16.75ドル(約2300円)を稼いだ。約13時間後、リードは死亡した。
事故のわずか5日後、バートンは再びハンドルを握り、ドアダッシュの配達をしていた。
バートンは同年2月に過失致死などの容疑で逮捕されたが、すぐに保釈された。そして、翌年にかけてドアダッシュだけで977件もの配達に従事した。
他の資料によると、バートンは交通違反の召喚状に応じなかったため2カ月間の運転免許停止処分を受け、事故を起こした時は免停期間が明けたばかりだった。しかも免停中にも300件近くの配達を続けていた。
以上の記録は、リードの遺族が代理人を通じてフィラデルフィアの裁判所に起こした民事訴訟で最近作成された補正訴状に基づくものだ。被告にはバートンの他、ドアダッシュと宅配代行業のPostMates(ポストメイツ)も含まれている。提訴は2021年に遡り、当初の被告はバートンとフードデリバリー企業GrubHub(グラブハブ)のみだった。
原告代理人を務める弁護団は、配達員の審査が不十分だった点をめぐって企業側の責任を追及する構えだ。代理人の1人であるロバート・ミラー弁護士は「管理監督の目が皆無だったことは明らかだ。被告は、人をひき殺した後で1000件近い配達を請け負っている」とフォーブスに語った。
法律の専門家は、フードデリバリー企業が配達員を監督責任下にある従業員ではなく、独立した請負業者とみなすことで、いかに説明責任を回避しているかを浮き彫りにする悲劇だと指摘する。インターネット経由で単発や短期の仕事を請け負うギグワークのドライバーが起こした死亡事故に前例がないわけではないが、バートンが配達を継続できた期間の長さを考慮すると、この事例は特に注目に値する。
ペンシルベニア大学のリンゼイ・キャメロン教授(経営学)は「衝撃を受けた。歩行者を死なせても勾留されないなんて、聞いたことがない。もっとずっと軽微な違反で運転免許が取り消されているのを知っている」と話した。