食&酒

2023.05.27

10のミシュランの星を持つ女性シェフに聞く「自分流」の築き方

「メゾン・ピック」の アンヌ・ソフィー・ピック氏(c)anne-emmaniuelle-thion

「最初、父のもとで働いた料理人から古典的な味を学び、そこから少しずつ自分流に変えていきました。もちろん、そのことで離れてしまったゲストもいました。でも、祖父と父のスタイルが違ったように、私の料理も“新しいフランス料理”として多くのゲストに受け入れてもらえました」

小林氏によると、フレッシュな味や香りを大切にするため、ソースはテーブルごとに仕上げ、必ず味見をするので、味見の回数は1サービスで300回にもおよぶという。そんなところからも、一つひとつの仕事に真摯に向き合うピック氏の姿勢が見て取れる。


そもそも「新しさを受け入れてもらう」の根底には、膨大な量の試作がある。以前、筆者がシンガポールにあるミシュラン一つ星の支店「ラ・ダム・ドゥ・ピック」を訪れた際にも感じたことだが、ピック氏の料理には、繊細で複雑な香りのレイヤーがある。クラッシックな料理でも、意外性のある香りをふわりとヴェールのようにかけることで、全く新しい印象を与えるのだ。

「シェフがまず決めるのは、味と香りの組み合わせ。そこから、どんな主食材が合うかを逆算して考える。彼女の頭の中には、すでに理想の味わいがあって、日々のサービスでいかに精密にそれを再現するか、というアプローチです」と小林氏が料理が生まれる行程を解説してくれた。常に新しいおいしさを追求し、最近ではデンマークのノマ出身の専門家から、発酵について学んでいるという。

取材を通して、いつも自然体のピック氏の姿から感じたのは、男性社会で働く女性が「女性らしさ」を否定し「男性らしさ」を強調することは、逆に、自分の内側にある「ジェンダーギャップにとらわれること」なのかもしれない、ということだ。

性別に関わらず、自分の持つ感覚に正直に、強みを最大限に生かす。それが、これからの時代の、新しいジェンダー平等の形なのかもしれない。

文=仲山 今日子

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