映画

2023.05.14 17:00

ケイト・ブランシェット演じる指揮者の栄光と狂気 映画「TAR/ター」の見方

トッド・フィールド監督にとって、「TAR/ター」は前作「リトル・チルドレン」(2006年)以来、16年ぶりの新作となる。長編映画デビュー作である「イン・ザ・ベッドルーム」(2001年)から数えてもわずか第3作目にあたるのだが、前2作ともアカデミー賞にノミネートされており、密度濃い表現力には定評がある。

どうして16年もの間、新作の発表がなかったのか不思議ではあるが、それだけに「TAR/ター」に関しては、満を持して世に問うという強い決意も感じられる。作品の着想について監督自身は次のように語っている。

「子どもの頃に何が何でも自分の夢を叶えると誓うが、夢が叶った途端、悪夢に転じるというキャラクターについてずっと考えていた。リディア・ターは芸術に人生を捧げた結果、自分の弱みや嗜好をさらけ出すような状況を築いてしまったことに気づくのだ」

映画『TAR/ター』は5月12日(金) からTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー

クラッシックの指揮者を主役にした作品ということで、フィールド監督は随所に実力派らしいこだわりも見せている。入念にリサーチを重ね、「実際にこの世界で生きる人たちから、間違っていると言って作品を一蹴されるのが怖かった」とも語っている。

「指揮者は何を考えているか」の著作もあり、指揮者としても活躍しているジョン・マウチェリに脚本の監修を仰いだり、オーケストラの演奏のシーンではドレスデン・フイルハーモニー管弦楽団の本拠地での撮影も敢行したりしている。

また、主人公のターにとっては重要な転機をもたらす役どころ、チェロリストのオルガ役には、実際にチェロの演奏者としても一線で活躍するソフィー・カウアーを起用している。もちろん彼女にとっては、これが映画初出演となっている。

細部までリアルにこだわった演出のなかで、栄光の頂点にある女性指揮者の心のうちに深く切り込んでいく「TAR/ター」。音楽のファンならずとも、そのシリアスなドラマにはいたくひき込まれていくはずだ。

連載 : シネマ未来鏡
過去記事はこちら>>

文=稲垣伸寿

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事