「分断された世界における協力の姿」をテーマに、2023年1月16日から5日間にわたり開催された世界経済フォーラム年次総会2023(通称「ダボス会議」)。47人の国家元首・政府高官を含む2700人以上のリーダーが世界130カ国から集結し、実施されたセッションの数は480以上にのぼった。
COVID-19の余波に、ロシアのウクライナ侵攻。世界は経済的、地政学的なリスクと同時に気候変動や不平等など、さまざまな課題に直面している。世界情勢が混沌とするなか、求められるのはより持続可能で包括的、かつ強靭な経済のかたちだ。新たなシステムやツール、アイデアで旧来の仕組みから経済を解き放つ。そのうえで重要なアクターが起業家やイノベーターである。
ビジネスを通じて世界の課題解決に取り組む彼ら彼女たちはいま、何を考えているのか。そして、どのような協力のかたちに未来を見いだそうとしているのか。
このような問いを抱きながら1月中旬、スイス屈指のリゾートエリア・ダボスに降り立った。
「目標は相互に補完し合うものであるべきだ」
ダボス会議2日目の午後、問いを解く手がかりとなるセッションが開催された。シュワブ財団による「コレクティブの力──2023ソーシャル・イノベーション・アワード」だ。今年はテクノロジーとシェアリングエコノミーの仕組みで飢餓の問題に取り組むアルゼンチン企業のCEOや、ニューヨークを拠点に活動する「オープン採用」のパイオニアなど、社会に新たなモデルを示す16の個人や団体が表彰された。
特筆すべきは、「社会起業家」「民間社内社会起業家」「公的社内社会起業家」という3カテゴリに加えて、新たに「コレクティブ・ソーシャル・イノベーション」という枠が設けられたことだ。
受賞した組織のひとつが、ブラジルに拠点を構えるマップバイオマスである。ブラジルは気候変動対策や環境対策において、その動向が注視される国のひとつだ。「ブラジルのCO2排出量の75%は森林伐採や農業、家畜の飼育からきている」と、創設者で総合コーディネーターのタッソ・アゼベドは指摘する。
排出量を削減するためのよりよい意思決定には、土地利用の変化を把握する必要がある。そこでマップバイオマスは70以上のNGOや大学、技術系スタートアップと連携し、衛星画像のデータやAI、専門知識を活用しながら土地の被覆や土地利用のマッピングを作成。その変遷をモニタリングしながら、科学を通じて対策を後押しする。アゼベドは言う。
「この賞は、マップバイオマスに取り組んでいる人たちと、人と自然が共生できる世界を一緒につくってくれる人々のためにある」
一方、「カナダ人の58%に相当する2200万人にインパクトを与えている」というのがカナダのタマラック・インスティチュートだ。共同主宰者のリズ・ウィーバーは主にカナダの貧困を終わらせるというビジョンのもと、地域のチェンジメーカーなどとのネットワークを通じてコミュニティ変革のための共同戦略を開発・支援している。
受賞スピーチで、ウィーバーはコレクティブ・インパクトの創出には財政支援を含めたパートナーシップが重要だと強調し、こう締めくくった。
「この(ダボス)会議では、財務的な目標、持続可能な目標、そしてソーシャルセクターに目を向けた目標について話し合われています。これらは互いに独立したものであってはなりません。相互に補強し合うものでなければならないのです」